NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

一日一言「意志は運命を拓くもと」

一月七日 意志は運命を拓くもと


 今日(西暦一七六六年)はフランスの皇帝ナポレオンが生まれた日である。彼は意志さえ持っていれば道はおのずから開かれてくるものだと信じていた。彼は意志を乱用した傾向はあったが、確かに大英雄であった。意志は運命を拓くもとである。孟子も「求むれば則ち之れを得、舎(す)つれば則ち之れを失ふ」と言った。「門を敲(たた)けば開かる。求むれば必ず与へらる」とはキリストの言葉である。

── 新渡戸稲造(『一日一言』)



「人生はつくるものだ。必然の姿などといふものはない。」

 人生とは銘々が銘々の手でつくるものだ。人間はかういふものだと諦めて、奥義にとぢこもり悟りをひらくのは無難だが、さうはできない人間がある。「万事たのむべからず」かう見込んで出家遁世、よく見える目で徒然草を書くといふのは落第生のやることで、人間は必ず死ぬ、どうせ死ぬものなら早く死んでしまへといふやうなことは成り立たない。恋は必ず破れる、女心男心は秋の空、必ず仇心が湧き起り、去年の恋は今年は色がさめるものだと分つてゐても、だから恋をするなとは言へないものだ。それをしなければ生きてゐる意味がないやうなもので、生きるといふことは全くバカげたことだけれども、ともかく力いつぱい生きてみるより仕方がない。
 人生はつくるものだ。必然の姿などといふものはない。歴史といふお手本などは生きるためにはオソマツなお手本にすぎないもので、自分の心にきいてみるのが何よりのお手本なのである。仮面をぬぐ、裸の自分を見さだめ、そしてそこから踏み切る、型も先例も約束もありはせぬ、自分だけの独自の道を歩くのだ。自分の一生をこしらへて行くのだ。

── 坂口安吾『教祖の文学』