小栗上野介
慶応4年閏4月6日(1868年5月27日) 小栗忠順 没
司馬遼太郎は、小栗や勝海舟らを明治国家誕生のための父たち(ファーザーズ)と呼び、「薩長は、かれらファーザーズの基礎工事の上に乗っかっただけだ」とまで言います。
小栗の生涯は、わずか四十一年でした。張りつめた生涯でした。
門地が高かったために、立身を求める必要もなく、私心もありません。幕府は安心してかれに重職を歴任させました。かれの眼中はただ徳川家あるのみでした。徳川国家が極端に衰弱していることを百も知った上で、歴史のなかでどのような絵を描くかということだけが、かれの生涯の課題でした。
小栗は渾身の憂国家でしたが、しかし人と語りあって憂国の情を弁じあうというところはありません。真の憂国というのは、大言壮語したり、酔っぱらって涙をこぼすというものではありません。この時代、そういう憂国家は犬の数ほどたくさんいて、山でも野でも町でも、鼓膜がやぶれるほどに吠えつづけていました。小栗の憂国はそいうものではなく、日常の業務のなかにあたらしい電流を通すというものでした。
小栗は、福沢諭吉のいうところの「瘠我慢」をつらぬいて死にました。明治政府は、小栗の功も名も、いっさい黙殺しました。
「小栗の視野は、徳川にかぎられていた」
旨のことを、勝(海舟)は言っていますが、それは、ちょっと言いすぎであったでしょう。
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