NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

『大衆の反逆』

今月はオルテガ・イ・ガセット。
今晩からNHK「100分 de 名著『大衆の反逆』オルテガ
 → http://www.nhk.or.jp/meicho/

インターネットやSNSの隆盛で常に他者の動向に細心の注意を払わずにはいられなくなっている私たち現代人。自主的に判断・行動する主体性を喪失し、根無し草のように浮遊し続ける無定形で匿名な集団のことを「大衆」と呼びます。そんな大衆の問題を、今から一世紀近く前に、鋭い洞察をもって描いた一冊の本があります。「大衆の反逆」。スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセット(1883 - 1955)が著した、大衆社会論の嚆矢となる名著です。

社会のいたるところに充満しつつある大衆。彼らは「他人と同じことを苦痛に思うどころか快感に感じる」人々でした。急激な産業化や大量消費社会の波に洗われ、人々は自らのコミュニティや足場となる場所を見失ってしまいます。その結果、もっぱら自分の利害や好み、欲望だけをめぐって思考・行動をし始めます。自分の行動になんら責任を負わず、自らの欲望や権利のみを主張することを特徴とする「大衆」の誕生です。20世紀にはいり、圧倒的な多数を占め始めた彼らが、現代では社会の中心へと躍り出て支配権をふるうようになったとオルテガは分析し、このままでは私たちの文明の衰退は避けられないと警告します。

オルテガは、こうした大衆化に抗して、自らに課せられた制約を積極的に引き受け、その中で存分に能力を発揮することを旨とするリベラリズムを主唱します。そして、「多数派が少数派を認め、その声に注意深く耳を傾ける寛容性」や「人間の不完全性を熟知し、個人の理性を超えた伝統や良識を座標軸にすえる保守思想」を、大衆社会における民主主義の劣化を食い止める処方箋として提示します。

政治家学者の中島岳志さんによれば、オルテガのこうした主張が、現代の民主主義の問題点や限界を見事に照らし出しているといいます。果たして、私たちは、大衆社会の問題を克服できるのか?現代の視点から「大衆の反逆」を読み直し、歴史の英知に学ぶ方法やあるべき社会像を学んでいきます。


「第1回 大衆の時代」

【放送時間】
2019年2月4日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年2月6日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年2月6日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
中島岳志東京工業大学教授)…著書『保守と立憲』『保守と大東亜戦争』等の著書で知られる政治学者。
【朗読】
田中泯舞踊家
【語り】
小口貴子
大衆は「みんなと同じ」だと感じることに、苦痛を覚えないどころか、それを快楽として生きている存在だと分析するオルテガ。彼らは、急激な産業化や大量消費社会の波に洗われ、自らのコミュニティや足場となる場所を見失い、根無し草のように浮遊を続ける。他者の動向のみに細心の注意を払わずにはいられない大衆は、世界の複雑さや困難さに耐えられず、「みんなと違う人、みんなと同じように考えない人は、排除される危険性にさらされ」、差異や秀抜さは同質化の波に飲み込まれていく。こうした現象が高じて「一つの同質な大衆が公権力を牛耳り、反対党を押しつぶし、絶滅させて」いくところまで逢着するという。第一回は、オルテガの社会分析を通して、大衆社会がもたらすさまざまな弊害や問題点を浮き彫りにしていく。

オルテガ『大衆の反逆』 2019年2月 (100分 de 名著)
大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)
大衆への反逆 (文春学藝ライブラリー)