便利は暇を生むと同時に、その暇を食潰すものをも生むのである。
昔はあつたのに今は無くなつたものは落著きであり、昔は無かつたが今はあるものは便利である。昔はあつたのに今は無くなつたものは幸福であり、昔は無かつたが今はあるものは快楽である。幸福といふのは落著きのことであり、快楽とは便利のことであつて、快楽が増大すればするほど幸福は失はれ、便利が増大すればするほど落著きが失はれる。全く奇妙なことだが、人は暇をこしらへて落著きたいと切望し、そのために便利を求めながら、その便利のおかげでやつと暇が生じたときには、必ずその暇を奪ひ埋めるものが抱合せに発明されてゐるのだ。つまり、便利は暇を生むと同時に、その暇を食潰すものをも生むのである。
- 作者: 福田恆存,浜崎洋介
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/10/16
- メディア: 文庫
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