一日一言「人間の欲」
九月二十日 人間の欲
権利や義務も、主張することはもっともなことではあるが、言ってみると、これは満たされることを求める学問上の理論にすぎない。欲でつながっている社会では当たり前のことではあるが、せめて、夫婦、親子、親友の間では愛情とまごころをもって接しなければならない。
兄弟が田を分取りの争ひは
田分けものとや人のいふらん
親友の仲も互いに敵となる
欲ははげしき剣なりけり
自ら損な立場がとれた時、初めて人間となる。
権利を主張することが民主的な生き方であって、それが人間の最も望ましい生き方などと、私は思えない。私自身、弱いエゴイストだけれど、人間というものは、自分が損のできる人にならねばならないと思っている。できるかどうかは別として、そうありたいと願うのである。損な立場がとれた時、人間は初めて、動物ではなく、人間になれるからなのだ。
── 曾野綾子(『自分をまげない勇気と信念のことば』)
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