NAKAMOTO PERSONAL

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日本人は危機に気づかないのか

「【正論】日本人は危機に気づかないのか 明治大学名誉教授・入江隆則」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/180626/clm1806260004-n1.html

 20世紀の地政学マッキンダーは、海洋国家が大陸国家に対峙(たいじ)する際には、その中間に存在する半島の帰趨(きすう)が死活的に重要だと説いたことがあった。彼はこのテーゼを、紀元前5世紀のペルシャ戦争の昔からローマ帝国の時代を経て、20世紀の世界大戦の時代に至るまでの歴史を通観して確認している。東アジアの近代史には言及しなかったが、海洋国家の日本と大陸国家のロシアや中国との中間にある半島といえば、朝鮮半島しか存在しない。


 ≪東アジアの地政構造が変わる≫

 明治時代の日本の政治家たちはマッキンダーを読んでいなかったが、彼と全く同じ発想で日本の独立と繁栄のために朝鮮半島の重要性を理解していた。日清戦争日露戦争を戦った動機や、後に日本が朝鮮半島を併合した意図もまさにそこにあったという事実を、私は拙著(『海洋アジアと日本の将来』)で指摘したことがある。

 第二次世界大戦朝鮮戦争の戦後においても、朝鮮半島の南半分が韓国という名で海洋国家の側に残り、日本と韓国がともにアメリカの同盟国であったことが、日本の繁栄の一つの重要な基礎になった事実も、このマッキンダーの法則で説明できると考えている。

 しかし、残念ながら今日の東アジアの安定と繁栄の構造、あるいはその基礎が崩れようとしているように思われる。韓国の文在寅大統領は確信的な「容共派」であって、国内の反北派の組織を壊滅させようとしているようだ。

 不幸にしてアメリカでは極東アジアの地政構造に無知なトランプ大統領が出現して、金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談で「融和ムード」を盛り上げた。このまま進めば、朝鮮半島の統一は北主導の下で実現する可能性があるかもしれない。

 現在の北朝鮮は完全な中国寄りである。ここから予想されるのは、中国の意向に忠実で反日的な統一朝鮮が、アメリカによって承認されるという憂慮すべき事態の出現ではないだろうか。これは明治維新以降、今日に至るまでの、日本の一貫した朝鮮戦略とは全く正反対の政治構造が、極東アジアに出現することを意味しているはずである。


 大陸国家と対決する時代に≫

 さらに付け加えるならば、第二次世界大戦後の日本人はアメリカ占領軍総司令官だったマッカーサーによって洗脳されてしまい、自虐的な東京裁判史観によって骨抜きにされてしまった。その結果、日本人は自分自身の目で歴史を見てそれを解釈するという、いわば「歴史の解釈権」を奪われてしまった。

 日本の青年たちは自分たちが侵略国家の末裔(まつえい)であるかのような教育を受けさせられている。奇怪なことには、その方針をさらに推し進めたいという人々も、日本国内に存在しているようだ。

 アメリカの衰亡とその終焉(しゅうえん)が人々に語られるに至って久しいが、その結果がどうなるかといえば、日米安保条約は存在していても、実質としては日本独自の力で大陸国家の中国と対決しなければならない時代がやってくるということだろう。

 であるとすれば、日本人が先行してまず成し遂げておかなければならないのは、第1には当然ながら現行日本国憲法の改正であり、第2にはそのうえでの日本核武装の実現だと思う。しかし、この2つは戦後の日本で一部の人々によって真剣に語られることはあっても、一向に実現しなかった課題であり、明日にもわれわれが直面するかもしれない緊急事態には間に合いそうもない。


 ≪少ない先覚者に期待したい≫

 逆に現行の日本国憲法があるからこそ、戦後70年間この国は平和だったのだというような誤った認識を持つ人々は今も存在する。日本国憲法こそがノーベル平和賞に値すると語る人もいるようだ。

 また、日本人の核に対する感覚は非常に鋭敏である。このため、核搭載の潜水艦を日本近海に展開しておけば日本の安全保障は万全になるという、他の国であれば常識的な発想さえもが「夢のまた夢」であり、実現の可能性はないと考えなければならない。

 今日の日本の未曽有の危機を醸成しているのは、実はそういう戦後の日本人の消極的な発想にあるのだといえるが、その種の卑屈な考え方はいまだに広い大衆的な支持を得ているように見える。だからこそ事態は完全に八方ふさがりなのである。

 とは言いながら、私があえてこういう警世の文章を書いているのは、それでもなお日本政府の内外に、先覚者の存在を一握りでも期待したいからである。

 150年前の幕末維新の際に、日本が近代国家としての最初の国難に直面したときにも、松下村塾の出身者などにわずかの先覚者がいて、それがやがては類を呼んで、日本が西洋以外における唯一の「近代化」を成し遂げる国となる基礎を築いた。いつの時代にも先覚者の数は少ないのであって、今再びその少ない先覚者たちに期待を寄せたいと思う。