NAKAMOTO PERSONAL

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現代人は「孤独は悪い」と勘違いしている

「現代人は『孤独は悪い』と勘違いしている クリエイティブな人は1人を恐れない」(東洋経済ONLINE)
 → https://toyokeizai.net/articles/-/221633

作家の生活は孤独だ
 新しいものを創造するという行為は、しばしば孤独な内省の中で行われる。肖像画に描かれる芸術家はたいてい1人きりの姿であり、また「隠遁作家」や「孤高の芸術家」といった表現は、真実から生まれている。つまり、傑出した作品を生み出すには、自分の心と親密になれる孤独な場所が必要なのだ。

 イギリスの作家、ゼイディー・スミスは、孤独は作家にとって必要不可欠なものとして挙げ、「派閥、群れ、グループを避けなさい」と英「ガーディアン」紙に書いた。サマセット・モームは、作家の生活は「孤独だ」と言った。フェデリコ・フェリーニは、作家の暮らしはあまりに寂しいので映画監督になった、と述べている。

 確かに文豪と聞いて思い浮かぶのは、ボサボサ頭の人物が暗い部屋に1人、机に覆いかぶさるようにしていて、床にはくしゃくしゃに丸められた原稿が散乱している、といった情景だ。

 本を書くことは、とりわけ孤独な作業になりがちで、作家は自分の想像力や記憶に深くもぐりこまなければならず、少なくとも書き始めの段階では、共同作業の余地はほとんどない。

 引きこもったことで最もよく知られている作家は、マルセル・プルーストだろう。プルーストは1910年、傑作『失われた時を求めて』を執筆している間、ドアを閉め切って暮らしていた。

 彼はパリのオスマン通りのアパルトマンで、日中はひたすら寝て、夜中ずっと執筆するという生活を送った。イギリスの歴史家ジョン・キアは、そのようなプルーストの環境は、卓越した作品を書くことを可能にしただけでなく、作品の内容にも影響した、と論じている。

 プルーストは、文学で身を立てるにはパリでの派手な社交生活は邪魔になると感じ、「失われた時を取り戻す」ために、孤独な生活を選んだ。失われた時とは、もちろん『失われた時を求めて』のテーマだ。

 キアは、当時のプルーストの暮らしぶりをこう描写する。「新生パリの中心に住み、ベッドルームはパリ随一のおしゃれな通りに面していたが、ブラインドはしっかり閉じられ、パリの社交界の中心にいながら、それと距離を置いていた」。プルーストは、「内側にいながら離れて暮らす生活」は容易ではないが、自分にとって有益だということを確かに知っていた。

 自分自身の心の内を掘り下げていくと、意味、洞察、さらには幸福感が生まれる。孤独は、自らを発見し、情緒面での成熟を遂げるために必要な要素であり、孤独な状態で内省すると、最も深遠な洞察が得られる。

 1人でいると、自分が普段は目をそらしているものまで含めて、さまざまな側面に思いを馳せることになる。だからこそ、1人になってスローダウンし、良いものも悪いものも含めて自分のアイデアに耳を傾けなければならない。クリエイティブな仕事をするうえで、ある程度の孤独は欠かせないのだ。


孤独が大丈夫な人は情緒が安定している人
 「クリエイティブな人間の精神は、意識していないときでもつねに情報をシャッフルしている」と、アイザック・アシモフは2014年初版のエッセイで書いている。「他者の存在はこのプロセスを妨げるだけだ。というのも、創造とは恥ずかしいものだからだ。優れたアイデアがひとつ生まれるまでに、何百、何千というばかげたアイデアが生まれるが、普通はそれを人に見せようなどとは思わない」

 1人でいるときに心の中で起きていることは、人と交流しているときに心の中で起きていることと等しく重要なはずだが、私たちは、1人で過ごすことを「時間の無駄遣い」と見なしたり、反社会的な性格や暗い性格の表れと見なしたりしがちだ。

 しかし、孤独でいられることは、暗い性格や精神疾患の兆候などではなく、情緒が成熟し、心が健全に育った証と言える。D・W・ウィニコットは孤独でいられる能力を「情緒の成熟を示す最も重要な証のひとつ」だと言う。

 たとえあなたが極めて外向的な性格でも、「孤独でいられる能力」は、誰もが鍛えられる筋肉であり、活用すればクリエイティブ思考を後押しすることができる。

 心理学者のエスター・ブーフホルツは、孤独を「意義ある1人の時間」と呼び、それは対人関係にも仕事にも喜びと充実をもたらす、と説く。「現代社会では純粋な孤独が必要だということは、完全に忘れられている。そして、その過程でわたしたちは道を見失ってしまった」とブーフホルツは心理学の専門誌「サイコロジー・トゥデイ」で述べている。

 「孤独、空想、瞑想、1人の時間がもたらす安心感は計り知れない」とブーフホルツは訴える。「心の健康にとって必要なのは愛だけではない。孤独な時間から生まれる仕事と創造も等しく必要だということを覚えておこう」

 孤独に耐えられる能力は、成功したクリエイターに共通して見られる特徴だ。彼らはわずらわしい日常の雑事や付き合いに背を向けて、自分自身とつながることができる。

 だが、孤独とは、単に気が散るものを避けて暮らすというだけではない。それは心の中で内省し、新しいつながりを築き、意味を見いだすためのスペースをつくることなのだ。

 歴史上の偉大な芸術家や思想家は、比較的孤独な生涯を送っているが、現代の文化はつねに社会とつながっていることを過剰に評価し、孤独でいることの価値を認めようとせず、またその意味を誤解している。


イノベーターを目指すなら「1人」で働け
 アーティストでなくても、仕事をし、個人的な関心事を追求し、クリエイティブ思考を働かせるためには、1人の時間は欠かせない。アーティストだけでなく、優れたビジネスリーダーも最善のアイデアを捻出するには孤独が必要だ。

 アップルコンピューターの共同創設者であるスティーヴ・ウォズニアックは自著『アップルを創った怪物』において、独創的な思考を深めるには、1人の時間が欠かせないと語っている。

 イノベーターを志望する若者への彼のアドバイスは「1人で働け」である。もしあなたが、オープンオフィスでクリエイティブな仕事に取り組んだことがあれば、ウォズニアックに同意することだろう。

 研究の結果が語るのは、クリエイティブ思考の人は、革新的なアイデアをひねり出すために1人きりの環境を必要とし、そのアイデアを1つの概念や製品にまとめる段階になってから初めて、共同作業をするということなのだ。

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── 夏目漱石(『野分

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