『読書の今昔』
忘れた頃にやってくる寅彦先生。
ある天才生物学者があった。山を歩いていてすべってころんで尻しりもちをついた拍子に、一握りの草をつかんだと思ったら、その草はいまだかつて知られざる新種であった。そういう事がたびたびあったというのである。読書の上手じょうずな人にもどうもこれに類した不思議なことがありそうに思われる。のんきに書店の棚たなを見てあるくうちに時々気まぐれに手を延ばして引っぱりだす書物が偶然にもその人にとって最も必要な本であるというようなことになるのではないか。そういうぐあいに行けるものならさぞ都合がいいであろう。
一冊の書物を読むにしても、ページをパラパラと繰るうちに、自分の緊要なことだけがページから飛び出して目の中へ飛び込んでくれたら、いっそう都合がいいであろう。これはあまりに虫のよすぎる注文であるが、ある度までは練習によってそれに似たことはできるもののようである。
── 寺田寅彦(『読書の今昔』)
- 作者: 寺田寅彦
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今日の『産経抄』より。
「【産経抄】読書時間ゼロ分の大学生に訴えたい 2月28日」(産経新聞)
→ http://www.sankei.com/column/news/180228/clm1802280003-n1.html
東大教授の福島智(さとし)さんは、ハードボイルド小説のファンを公言している。福島さんは、9歳で失明、18歳で聴力を失った。見えなくて聞こえない過酷な状況で生きるということは、毎日戦場にいるような感じだという。
それゆえ、「命ギリギリのところで生きる(ハードボイルド小説の)登場人物」に「親近感が湧くし、エネルギーをもらえるんです」。数年前、月刊誌『致知』に掲載された作家、北方謙三さんとの対談で、語っていた。
昨今の大学生の多くは、そんなエネルギーを必要としていないらしい。全国大学生協連合会の調査によると、学生の「本離れ」はますます進んでいる。昨年はとうとう、1日の読書時間ゼロと答えた大学生が、初めて5割を超えた。
情報収集は、スマートフォンで用が足りる。アルバイトや就活で忙しい。理由はいろいろあるだろう。ただ別の調査では、高校生の「不読率」も5割に近い。大学入学前に読書の習慣が身に付いていないと、ずっと本と縁のない生活が続いていくわけだ。
プロ野球西武の菊池雄星投手は、読書家として知られている。先月の日経新聞で、沢木耕太郎さんの『敗れざる者たち』に収録されている「クレイになれなかった男」について書いていた。ついに燃え尽きることのなかったボクサー、カシアス内藤を描いたノンフィクションである。
成績が伸び悩んでいた菊池投手は、この本に出合って、やれることを全てやっていない、自分の甘さに気づいた。改めて、「燃え尽きよう」と誓った。それが、昨年のパ・リーグ最多の16勝と最優秀防御率の好成績につながったというのだ。読書の効用は小さくないぞ、と訴え続けたい。果たして、聞き耳を立ててくれるかどうか。
「大学生の読書離れが浮き彫りに 『1日の読書時間0分』過半数に出版社も危機感」(ITmediaビジネスオンライン)
→ http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1802/27/news082.html
「大学生『読書時間0分』初めて過半数超え 読む・読まないで『二極化』の傾向」(ハフィントンポスト)
→ http://www.huffingtonpost.jp/2018/02/26/reading-books_a_23371702/
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