NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

ある私的な振る舞い

今日の『産経抄』より。


「【産経抄】ある私的な振る舞い 1月23日」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/180123/clm1801230003-n1.html

 昨年12月に刊行され、評論家、西部邁(すすむ)さん(78)の最後の著作となった『保守の真髄』(講談社現代新書)のあとがきは、前代未聞の内容である。前半部分は、口述筆記してくれた娘さんにあてた遺書となっている。

 それで「完了といくはずだったのに」と続く。西部さんの「ある私的な振る舞いの予定日」に、衆院選が行われることになったというのだ。西部さんは、延期していた「予定」を決行した。21日早朝、東京都大田区を流れる極寒の多摩川に飛び込み、死亡した。

 西部さんは、著作のなかで何度も死について語っている。平成26年に妻の満智子(まちこ)さんに先立たれてから、さらに思索が深まった。2人は北海道・札幌の高校で16歳の時に出会い、25歳で結婚した。満智子さんは、「正規の軌道を外れがち」と自ら認める西部さんを支え続けた。

 がんが見つかった妻を、西部さんは自宅で看病した。「いと、おしい」、「失われるのが惜しい」と、初めて感じたという。西部さんによれば、「保守思想とは妻の看病をすること」だった。どちらも、「平衡感覚」が乏しければうまく遂行できないからだ。

 最愛の妻を看取(みと)って、一人残された西部さんの看病を誰がするのか。たとえ子供であっても、看病をめぐる「盟約」は取り交わされていない。ゆえに病院では死ねない。西部さんは『保守の真髄』のなかで、「自裁死」を正当化していた。賛同はできないが、理解はできる。

 東京・新宿で、仲間と酒を飲みながら語り合う時間を何よりも大切にした。ここ数カ月は、親しい人に別れを告げるために杯を傾けているようだった。飲み仲間によると、酒宴はいつも談論風発、なにより西部さんの笑顔がよかった。一度、見てみたかった。