NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

「犬」自然を受け入れる心

「【おやこ新聞】養老先生のさかさま人間学 生きるっておもしろい 『犬』 自然を受け入れる心」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/180115/clm1801150007-n1.html

 生物学的(せいぶつがくてき)な意味(いみ)で使(つか)うときには「イヌ」と表記(ひょうき)しますが、ふつうの文章(ぶんしょう)なら「犬(いぬ)」と書(か)きます。わたしはそう書(か)き分(わ)けています。今年(ことし)は戌年(いぬどし)ですから、それなら「戌」と書(か)いたらと思(おも)うかもしれませんが、この文字(もじ)に本来(ほんらい)、犬という意味はないようです。じゃあなぜ「戌」年なのだと思った人(ひと)は、自分(じぶん)で調(しら)べてくださいね。

 わたしが子供(こども)のころは、犬はつながれていないのがふつうでした。今(いま)では法令(ほうれい)で犬はつながなければいけません。犬にはかむくせがあるから、放(はな)し飼(が)いにすると危険(きけん)という考(かんが)えです。昔(むかし)から、犬が人をかんでもニュースではないと言(い)うほどですからね(代(か)わりに、人が犬をかんだらニュースだと言います)。

 犬を放し飼いにするのはブータンです。首都(しゅと)ティンプーの交差点(こうさてん)で寝(ね)ている犬を、車(くるま)がよけて通(とお)っていました。この交差点には信号(しんごう)がありません。一度(いちど)信号を付(つ)けたのですが、王様(おうさま)が気付(きづ)いて取(と)り外(はず)させたそうです。なぜでしょう。これも自分で考えてくださいね。

 子供のころ、人の家(いえ)の門(もん)を入(はい)って飼(か)い犬にかまれました。こわくもなかったし、あまり腹(はら)も立(た)ちませんでした。知(し)り合(あ)いとはいえ、他人(たにん)の家(いえ)に勝手(かって)に入ったんですから。

 それでどう思ったというと、「かまなくたっていいのに」と思っただけです。別(べつ)にいじめようと思っていたわけじゃありませんからね。でも、それは犬には通(つう)じません。

 一言(ひとこと)、忠告(ちゅうこく)しておきます。犬をこわがってはいけません。こわがらないためには、犬に慣(な)れることです。じつは自然(しぜん)のものはみんなそうなんですけれどね。しょうがない。そう思って、受(う)け入(い)れることです。(解剖学者(かいぼうがくしゃ)・養老孟司(ようろう・たけし))


【用語解説】ブータン

 ヒマラヤ山脈(さんみゃく)の東部(とうぶ)にある王国(おうこく)。面積(めんせき)は約(やく)3万(まん)8400平方(へいほう)キロメートルで九州(きゅうしゅう)と同(おな)じくらい。人口(じんこう)は約(やく)78万4000人(にん)。国(くに)の宗教(しゅうきょう)は、チベット仏教(ぶっきょう)から分(わ)かれた独自(どくじ)の仏教。死(し)んでも生(う)まれ変(か)わるという考え方(かた)を信(しん)じて、自然や生(い)き物(もの)を大切(たいせつ)にする国民(こくみん)が多(おお)く、「幸福(こうふく)の国(くに)」ともいわれる。