NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

満月とお山

「きみはあの月も 星も あんなものが本当にあると思ってるのかい」
 とある夜ある人が云った
「うん そうだよ」
 自分がうなずくと
「ところがだまされているんだ あの天は実は黒いボール紙で そこに月や星形のブリキが貼りつけてあるだけさ」
「じゃ月や星はどういうわけで動くんかい」
 自分が問いかえすと
「そこがきみ からくりさ」
 その人はこう云ってカラカラと笑った 気がつくとたれもいなかったので オヤと思って上を仰ぐと 縄梯子の端がスルスルと星空へ消えて行った

── 稲垣足穂『一千一秒物語』

一千一秒物語

一千一秒物語


手稲山