NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

全体主義の起原

今月はアーレント
今晩からNHK「100分 de 名著『全体主義の起源』ハンナ・アーレント
 → http://www.nhk.or.jp/meicho/

 今年1月、全米でベストセラーを記録した一冊の本があります。ビジネス書や娯楽小説ではありません。第二次大戦後まもなく出版された「全体主義の起原」。ナチスドイツやスターリンによってもたらされた前代未聞の政治体制「全体主義」がどのようにして生まれたのかを、歴史をさかのぼって探求する極めて難解な名著です。大統領が進める強権的な政治手法、排外主義的な政策に反発した市民たちがこぞって買い求めたといわれています。この名著を執筆したのは、ハンナ・アーレント(1906-1975)。ナチスによる迫害を逃れてアメリカに亡命したユダヤ系ドイツ人の政治哲学者です。

 1945年、廃墟となったドイツでは、ナチス支配の実態を物語る膨大な資料が続々と明らかにされ始めていました。多くの同胞を虐殺され、自らも亡命生活を余儀なくされたアーレントは、これらの資料に立ち向かい、ひとときも休むことなく「全体主義の起原」の執筆を続けました。その結晶は、1951年に米英で同時出版。世界に一大センセーションを巻き起こします。

 アーレントによれば、全体主義は、専制や独裁制の変種でもなければ、野蛮への回帰でもありません。二十世紀に初めて姿を現した全く新しい政治体制だといいます。その生成は、国民国家の成立と没落、崩壊の歴史と軌を一にしています。国民国家成立時に、同質性・求心性を高めるために働く異分子排除のメカニズム「反ユダヤ主義」と、絶えざる膨張を求める帝国主義の下で生み出される「人種主義」の二つの潮流が、19世紀後半のヨーロッパで大きく育っていきます。20世紀初頭、国民国家が没落してゆく中、根無し草になっていく大衆たちを、その二つの潮流を母胎にした擬似宗教的な「世界観」を掲げることで動員していくのが「全体主義」であると、アーレントは分析しました。全体主義は、成熟し文明化した西欧社会を外から脅かす「野蛮」などではなく、もともと西欧近代が潜在的に抱えていた矛盾が現れてきただけだというのです。

 アーレントの研究を続ける仲正昌樹さんは、現代にこそ「全体主義の起原」を読み直す意味があるといいます。経済格差が拡大し、雇用・年金・医療・福祉・教育などの基本インフラが崩壊しかけているといわれる現代社会は、「擬似宗教的な世界観」が浸透しやすい状況にあり、たやすく「全体主義」にとりこまれていく可能性があるというのです。

 番組では、金沢大学教授・仲正昌樹さんを指南役として招き、「全体主義の起原」を現代の視点から読み解くことで、世界を席巻しつつある排外主義的な思潮や強権的な政治手法とどう向き合ったらよいかや、全体主義に再び巻き込まれないためには何が必要かをといった普遍的問題を考えていきます。


第1回 異分子排除のメカニズム
【放送時間】
2017年9月4日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2017年9月6日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2017年9月6日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【講師】
仲正昌樹金沢大学教授)
【朗読】
田中美里(俳優)
【語り】
徳田 章(元NHKアナウンサー)


 フランス革命を期にヨーロッパに続々と誕生した「国民国家」。文化的伝統を共有する共同体を基盤にした国民国家は、「共通の敵」を見出し排除することで自らの同質性・求心性を高めていった。敵に選ばれたのは「ユダヤ人」。かつては国家財政を支えていたユダヤ人たちは、その地位の低下とともに同化をはじめるが、国民国家への不平不満が高まると一身に憎悪を集めてしまう。「反ユダヤ主義」と呼ばれるこの思潮は、民衆の支持を獲得する政治的な道具として利用され更に先鋭化していく。第一回は、全体主義の母胎の一つとなった「反ユダヤ主義」の歴史を読み解くことで、国民国家の異分子排除のメカニズムがどのように働いてきたかを探っていく。

世界最大の悪は ごく平凡な人間が行う悪です

そんな人には動機もなく 信念も邪念も 悪魔的な意図もない

人間であることを 拒絶した者なのです

そして この現象を 私は“悪の凡庸さ”と 名づけました

ソクラテスプラトン以来 私たちは“思考”をこう考えます。自分自身との静かな対話だと。
人間であることを拒否したアイヒマンは人間の大切な質を放棄しました。
それは思考する能力です。
その結果 モラルまで判断不能となりました。
思考ができなくなると 平凡な人間が残虐行為に走るのです。
過去に例がないほど 大規模な悪事をね。
私は実際 この問題を哲学的に考えてみました。

“思考の風”が もたらすのは 知識ではありません

善悪を区別する能力であり 美醜を見分ける力です

私が望むのは 考えることで 人間が強くなることです

危機的状況にあっても 考え抜くことで破滅に至らぬよう

ハンナ・アーレント』 http://www.cetera.co.jp/h_arendt/


『映画『ハンナ・アーレント』どこがどう面白いのか 中高年が殺到!』 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37699
『「映画『ハンナ・アーレント』レビュー、思考し続ける大切さと意志の強さ」(HUFF POST)』 http://www.huffingtonpost.jp/hotaka-sugimoto/post_6593_b_4543365.html
『「『ハンナ・アーレント』が人気の理由」(朝日新聞社)』 http://webronza.asahi.com/culture/2013120500003.html
『2014年01月08日(Wed) 『ハンナ・アーレント』』 http://d.hatena.ne.jp/nakamoto_h/20140108


イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告

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全体主義の起原 1 ――反ユダヤ主義

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全体主義の起原 2 ――帝国主義

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全体主義の起原 3 ――全体主義

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