一日一言「伊達政宗の座右の銘」
伊達政宗は寛永十三年(西暦一六三六年)の今日に、七十歳でこの世を去ったが、座右の銘にいう。
仁に過れば弱くなる。
義に過れば固く成る。
礼に過れば諂となる。(へつらい)
智に過れば嘘をつく。
信に過れば損をする。
漱石先生が言うには、、、
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろげ)て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降(くだ)る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
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