一日一言「急がずおこたらず」
三月二十二日 急がずおこたらず
西暦一八三二年の今日は、ドイツの文豪ゲーテが世を去った日である。あらゆる面で才能が卓越した彼は、「急ぐなかれ、おこたるなかれ」の主義を守って業績を残した。凡人はしなければならないことや、してきたことを思うと、気だけあせって何から手をつけようかと迷うばかりで、その挙句は、何もしないで一生を終わることになる。一生の仕事は、その日その日のことを完成させるほかはない。
怠らず行かば千里の外も見ん
牛の歩のよしおそくとも
アンゴ先生にも曰く、
他人が正しくないと云って憤るよりも、自分一人だけが先づ真理を行ふことの満足のうちに生存の意義を見出すべきではないですか。郵便配達夫は先づその職域に於て最善の責務を果すことです。それもできずに、道義退廃だの政治の改革だのと騒いでも駄目です。私は結社や徒党はきらひで、さういふものゝ中でしか自分を感じ得ぬ人々は特にきらひなのです。
── 坂口安吾(『青年に愬ふ―大人はずるい―』)