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NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

「文明を逐ふ」

「【正論】『文明を逐ふ』路線を貫くときだ 東洋学園大学教授・櫻田淳」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/170309/clm1703090007-n1.html

 ドナルド・J・トランプ米国大統領の政権始動から1カ月半、彼の動静を伝える報道は止(や)むことがない。彼は、その一挙一動に対する内外の注目度において、歴代米国大統領の中でも稀有(けう)な存在であろう。彼の政権運営に予感させる「不可測性」も、そのことに拍車を掛けている。


 ≪日本は安全保障哲学を確立せよ≫

 ただし、トランプ大統領の政権運営に関して確実に断言できることは、彼が標榜(ひょうぼう)する「米国第一主義」の内実が、米国が対外関与を手控えるという意味での「孤立主義」ではないということである。

 トランプ大統領は、日米首脳会談翌日、北朝鮮のミサイル発射を受けて設定された記者意見の席で、「すべての人々は、米国が偉大な同盟国、日本と100%ともにあることを知るべきだ」と語った。また、彼は議会演説の中でも、「米国の外交政策は、世界との直接的で確固とした、意義のある関与を求めている。米国のリーダーシップは、世界中の同盟国と共有する極めて重要な安全保障上の利益に基づく」と語っている。

 議会演説中、「NATO北大西洋条約機構)や中東、太平洋地域などのパートナー諸国が、戦略や軍事作戦で直接的かつ意義のある役割を果たし、公平なコストを負担するよう期待する」という一節は、彼の本音を表したものかもしれないが、それでも前年比1割増の国防予算支出方針にあわせて、米国の「孤立主義」傾向への懸念を払拭するものであったといえよう。

 日本としては、トランプ大統領の志向に呼応して、安全保障努力を強化する政策志向を明確に打ち出すべきであろう。それにあわせて、「日本の安全保障は、自由民主主義諸国全体で確保し、日本の安全保障上の努力は、自由民主主義諸国全体に貢献する」という安全保障哲学を確立していくことが、大事になる。それは、トランプ大統領執政下の米国を「利己」や「独善」に走らせないための配慮でもある。


 ≪同盟結束に寄与した福澤の方針≫

 明治初年、福澤諭吉は、『文明論之概略』中、「今の時に当て、前に進まん歟(か)、後に退かん歟、進て文明を逐(お)はん歟、退て野蛮に返らん歟、唯進退の二字あるのみ」と書き、幕藩体制から脱したばかりの日本の人々に対して、「文明を逐ふ」選択を提示した。

 それ以降、日本の対外政策路線は、「文明を逐ふ」という福澤の言葉の趣旨の通りに、欧米諸国との協調を基調とするものであった。それは、具体的には、明治期には「近代化・産業化」という大義に重なるものであったし、第二次世界大戦後の冷戦期には「西側同盟の結束」に寄与するものであった。

 そして、福澤以来の「文明を逐ふ」という方針は、中韓両国を含む多くの国々が表面上は「産業化・近代化」を成したように映る現在でも、自由、民主主義、人権、法の支配といった「普遍的な価値意識」の尊重という新たな中身を伴いつつ、確(しっか)りと護持されている。その意味では、安倍晋三首相が第2次内閣発足以降に披露した対外政策展開は、彼の専売特許ではなく、永きに渉(わた)る「文明を逐ふ」流儀に沿ったものである。

 故に、仮に今、福澤が「今世界の文明を論ずるに、欧羅巴諸国並に亜米利加の合衆国を以(もっ)て最上の文明国と為(な)し」と書いた当の欧州諸国や米国において、その文明の様相にふさわしくない「偏狭」や「非寛容」の空気が漂いつつあるのであれば、その空気に抗(あらが)う姿勢を示すことは、「文明を逐ふ」流儀に照らし合わせて、意義深いのではなかろうか。


 ≪安倍首相にこそ「説得性」がある≫

 ところで、欧州諸国や米国における「偏狭」と「非寛容」の空気は、各国における「ナショナリストの擡頭(たいとう)」と軌を一にするものとして語られる向きがある。

 トランプ大統領の登場、あるいはフランス国民戦線マリーヌ・ルペン党首の隆盛は、その証左として語られてきた。それならば、安倍首相は、こうした世情を前にして、「ナショナリズム」と「国際協調」の両立の仕方を披露していくべきではなかろうか。

 もともと、その強烈なナショナリスト色を指摘されてきた安倍首相であればこそ、そうした仕方の披露には「説得性」が伴うであろう。

 幸いにして、先刻の日米首脳会談の結果、安倍首相とトランプ大領領には相応の「信頼関係」が構築された。トランプ大統領の政治姿勢を無邪気に批判するのは当節、最も安易な振る舞いにすぎず、日本の利害に照らし合わせて、もはや然程(さほど)、有益なものでもないのであろう。

 要は、前にも指摘したように、トランプ大統領の政権運営を「利己」や「独善」に堕させないために、何をするかということに他ならない。そのためにこそ、「安倍・トランプ」関係における「信頼」醸成の意義がある。フランシス・フクヤマが日本と米国を「高信頼社会」と位置付けたことの意義は、忘れられるべきではない。

文明論之概略 (岩波文庫)

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