坂口安吾と福田恆存
坂口さんのこと。
坂口さんは人間のすなおなやさしさといったものを求めていた人であるし、またそういうものを皆がじかに出しあって、傷つかずに生きていくことを夢みていた人でもあろう。ぼくが坂口さんのことをローマン派だとおもうゆえんである。
坂口さんが伊東にいた頃、二度ばかり遊びにいったことがあるが、そういう時にもすなおなやさしさにふれたいという彼の切ない気持ちを感じた。
─ 中略 ─
坂口さんが家を探していた時、ちょっと手伝ってあげたそのお礼に、アメリカ製のカンキリを貰った。今でも愛用しているが、これがとうとうかたみになってしまった。オモチヤみたいな機械類を好んだ坂口さんをぼくは好きだった。
── 福田恆存(「坂口さんのこと」『知性』昭和三○年四月号)
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