NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

この劇的なるもの

 自然のままに生きるという。だが、これほど誤解されたことばもない。もともと人間は自然のままに生きることを欲していないし、それに堪えられもしないのである。程度の差こそあれ、だれでもが、なにかの役割を演じたがっている。また演じてもいる。ただそれを意識していないだけだ。そういえば、多くのひとは反撥を感じるであろう。芝居がかった行為に対する反感、そういう感情はたしかに存在する。ひとびとはそこに虚偽を見る。だが、理由はかんたんだ。一口にいえば、芝居がへたなのである。

── 福田恆存『人間・この劇的なるもの』


人間・この劇的なるもの (中公文庫)

人間・この劇的なるもの (中公文庫)