NAKAMOTO PERSONAL

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「北海はなぜガッツポーズしないのか。」

「北海はなぜガッツポーズしないのか。甲子園では珍しいスタイルの『理由』。」(NumberWeb)
 → http://number.bunshun.jp/articles/-/826320


 そつのない攻撃では決してなかった。ミスも少なくなかった。それでも、彼らは負けなかった。

 北海(南北海道)が88年ぶりの甲子園ベスト4進出を果たした。彼らの戦いぶりで際立っていたのは、常にどんな時も冷静な精神状態を保つということだった。どんな試合展開になっても、試合をものにしていく強さがある。

 エースでキャプテンを務める大西健斗は、こう語る。

「一喜一憂しないでプレーすること。そうすることで、試合中の物事を冷静に見られたり、プレーにつながっていると思う」

 準々決勝の聖光学院(福島)戦は、初回に守備のミスから3点を失う苦しい展開だった。しかし直後に2点を返すと、じりじりと相手を追い詰めていく。流れが悪くなりそうなプレーがあっても落胆せず、目の前で起きるプレーを冷静沈着にこなしていく。そうやって、次第に流れを引き寄せていく。


ミスはある。しかし気がつくと試合をものにしている。

 4回表、先頭の7番・下方忠嗣が右翼前安打で出塁、続く8番・大西の犠打が失敗に終わるも、9番・鈴木大和がバント内野安打でチャンスを広げると、2死から菅野伸樹、佐藤佑樹の連続適時打で逆転に成功する。

 5回表には5番・川村友斗の2試合連続本塁打に加え、2つの四球で得た好機に9番・鈴木が絶妙なセーフティスクイズを成功させた。8回表には、1死一塁から佐藤大が投ゴロ、投手からのボールを遊撃手が落球したようにも見えたが、判定はアウト。抗議もあって嫌な空気が流れたが、次打者・川村が初球をたたいて右中間への適時二塁打で1点を追加した。

 守備では、1回に右打者がスライダー、左打者にストレートと狙い球を絞られて失点したが、回を追うごとに配球の幅を広げて打ち取っていった。9回裏迎えた1死満塁のピンチも、併殺打に切って試合を締めた。

 ミスや流れを悪くしかねないプレーがあるのだが、気が付くと試合をものにしている。北海の今大会の戦いぶりを振り返ると、そんな試合ばかりだ。


ガッツポーズや雄たけびをしない北海の選手たち。

 初登場となった2回戦の松山聖陵(愛媛)戦は18残塁の拙攻、3回戦の日南学園(宮崎)戦では併殺打3回。1イニング2安打しながら得点できないことが4度あった。この日の聖光学院戦では、また残塁が2桁の12個、守備でも、先制点につながる失策を犯している。

 それでも、彼らは崩れない。その要因としては、常に精神状態が一定に保たれていることがある。「プラス思考」とは少し異なるメンタリティーだ。

 例えば、ピンチを抑えたときのマウンド上のエース・大西や、2試合連続本塁打の川村の振る舞いが象徴だった。

 高校野球では頻繁にみられる、気合のこもったガッツポーズや相手を威圧するような雄たけびを、彼らはしない。

 川村がその理由を説明する。

「相手に点を獲られたから、こっちが得点を獲ったからと浮き沈みしないで、試合をやっていくことが大事だと思います。ホームランにしても試合の中の1つのプレーなので、まだ試合に勝ったわけではありません。(ガッツポーズをしないことが)冷静なプレーにつながっていると思います。チーム内で我慢して戦っているという意識は強いです」


1つのプレーではなく、ゲームに勝って喜ぶ。

 1つのプレーに対して一喜一憂しないから、気持ちにムラがなくプレーできる。打って喜んでしまえばそれは油断につながり、打てなくて落胆することが次のプレーの精度を下げることを彼らは知っているのだ。

 1試合に18残塁や3併殺もしてしまえば、いわゆる「負け試合」の空気が充満してもおかしくはない。しかし感情の起伏を作らないことで、彼らのプレーの精度は最後まで落ちない。

「やばいって心配にならなければ、気持ちがマイナスになることがない。だから、チャンスで打てなくても、次行こうって思える」

 4回表に同点適時打を放った菅野のこの言葉にも、北海のメンタルコントロール観が透けて見える。チームを率いる平川敦監督は、次のように説明してくれた。

「野球は1回から9回まであるので、一喜一憂することなく、最終的にゲームで勝って喜び、嬉しさを感じなさいと言っています。1つのプレーで一喜一憂してしまうと、それが油断、勘違いにつながってミスをして、3、4点という失点となってしまう。そこを、4点を3点、3点を2点という風に抑えられれば、中盤から終盤に2、3回チャンスが来ると思うので、その時に畳みかけるようにと考えています。落胆して『あの時の1点を防いでおけば』とならないように心がけていますね」


対戦相手の監督が感じた北海の手強さ。

 北海と戦った聖光学院日南学園、松山聖陵は、おそらく試合に負けた気がしなかったのではないだろうか。攻めていた時間帯もあったし、リズムのいい守りをしていたのはむしろ、彼らの方だった。

「大西君は粘りのあるピッチングをしていて、崩れそうで崩れなかった。北海はいつもそうなんだけど、淡々と戦っていた」と聖光学院の斎藤智也監督が言えば、日南学園の金川豪一郎監督も「こっちは理想的な形でしのいで攻撃をしていったんですけど、(北海は)勝負所を分かっていた」と称えている。

 エースでキャプテンの大西は力を込めて言う。

「僕は相手打者を抑えて、ガッツポーズや雄たけびをしないです。野球は相手があって成立するスポーツですから、相手を敬うことを大事にしたいです」

 ガッツポーズをしない快進撃。北海の謙虚で冷静沈着な戦いはまだ続く。

我が母校、決勝進出。


「北海が初の決勝進出 秀岳館に4-3」(北海道新聞
 → http://dd.hokkaido-np.co.jp/sports/school-baseball/school-baseball/1-0306834.html
「北海、秀岳館破り決勝へ 勝負強さ発揮、大西は4完投目」(朝日新聞
 → http://www.asahi.com/articles/ASJ8N2W0TJ8NPTQP011.html
「『北海決勝進出!』に札幌ドーム大歓声!」(日刊スポーツ)
 → http://www.nikkansports.com/baseball/news/1697787.html