NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

河童忌

  私はこの部屋へ通ふのが、暗くて、実に、いやだつた。私は「死の家」とよんでゐたが、あゝ又、あの陰鬱な部屋に坐るのか、と思ふ。歩く足まで重くなるのだ。私は呪つた。芥川龍之介を憎んだ。然し、私は知つてゐたのだ。暗いのは、もとより、あるじの自殺のせゐではないのだ、と。ジュウタンの色のせゐでもなければ、葛巻のせゐでもなかつた。要するに、芥川家が暗いわけではなかつたのだ。私の年齢が暗かつた。私の青春が暗かつたのだ。
 青春は暗いものだ。

── 坂口安吾(『暗い青春』)


1927年(昭和2年)7月24日 芥川龍之介 没
河童忌。


向日葵の花油ぎる暑さかな

── 芥川龍之介

河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)

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蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

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