計らいを越えて
善かれと思って、はからったことが、善かれと思ったようにはならなくて、思いもかけぬ反対の結果を生み出すことが、しばしばある。思いが足りないのか、はからいが足りないのか、そこにはいろいろ原因があるのだろうが、よくよく考えてみれば、やっぱりそこには、何らかの策を弄したという跡が目にうつるのである。
善意の策も悪意の策も、策は所詮策にすぎない。悪意の策は、もちろんいけないけれども、しかしたとえ善意に基づく策であっても、それが策を弄し、策に堕するかぎりは、悪意の策と同じくまた決して好ましい姿とは言えないであろう。つまり、何ごとにおいても策なしというのがいちばんいいのである。
無策の策といってしまえば平凡だけれども、策なしということの真意を正しく体得して、はからいを越え、思いを越えて、それを自然の姿でふるまいあらわすには、それだけのいわば悟りと修練がいるのではなかろうか。
おたがいに事多き日々、思いもかけぬ悩みを悩む前に、時にはこの策なしの境地というものに思いをめぐらせ、心静かに反省してみたいと思うのである。
1989年(平成元)4月27日 松下幸之助 没
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