NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

Full Moon on Christmas Day

「38年ぶりの満月のクリスマス 次は2034年」(CNN.jp)
 → http://www.cnn.co.jp/fringe/35075564.html

今晩、空を見上げて見えるのはサンタクロースのそりだけではない。天気がよければ丸い満月が夜空に輝いているはずだ。
クリスマスの夜と満月がぶつかるのは、1977年以来38年ぶりのことだ。満月の大きさがピークを迎えるのは米東部時間25日午前6時11分(日本時間同日午後8時11分)ごろ。
米航空宇宙局(NASA)によれば次回、クリスマスに満月が浮かぶのは2034年になる。

「今日は38年ぶりの満月クリスマスです」(sorae.jp)
 → http://sorae.jp/030201/2015_12_24_nasa.html



タルホ。

 さあ皆さん どうぞこちらへ! いろんなタバコが取り揃えてあります どれからなりとおためし下さい

『月光密造者』
 ある夜 明けがたに近い頃 露台の方で人声がするので 鍵穴からのぞくと 黒い影が二つ三つなにか機械を廻していた──近頃ロンドンで発明されたある秘密な仕掛けによって 深夜月の高く昇った刻限に 人家の露台で月の光で酒を醸造する連中があるという新聞記事に気がついた 自働ピストルを鍵穴に当ててドドドドド・・・と射った 露台の下の屋根や路上にあたってガラスの割れる音がした
 扉を開けてとび出そうとすると 入れかわりに風のようなものが流れこんできて 自分を吹き倒した 気がついて露台に出てみると たれもいなくなっていた びんが一つ屋根の端に止っていたので ひろってきてすかしてみると 水のようなものがはいっていた 振っていたらコルクがひとりでにぬけた ギボン! 静かな夜気にひびくと びんの口からおびただしい蒸気が立ち昇って 見る見る月の光にとけてしまった・・・
 自分はびんの中に何もなくなってしまうまで見つめていたが それッきりであった ただ月が平常よりほんの少うし青かった

『星を食べた話』
 ある晩露台に白ッぽいものが落ちていた 口へ入れると 冷たくてカルシュームみたいな味がした
 何だろうと考えていると だしぬけに街上へ突き落とされた とたん 口の中から星のようなものがとび出して 尾をひいて屋根のむこうへみえなくなってしまった
 自分が敷石の上に起きた時 黄いろい窓が月下にカラカラとあざ笑っていた

『星でパンをこしらえた話』
 夜更けの街の上に星がきれいであった たれもいなかったので 塀の上から星を三つ取った するとうしろに足音がする ふり向くとお月さまが立っていた
 「おまえはいま何をした?」
 とお月様が云った
 逃げようとするうちに お月様は自分の胸をつかんだ そしていやおうなしに暗い小路にひッぱりこんで さんざんにぶん殴った そのあげくに捨てセリフを残して行きかけたので 自分はその方へ煉瓦を投げつけた アッと云って敷石の上へ倒れる音がした 家へ帰ってポケットの中をしらべると 星はこなごなにくだけていた Aという人がその粉をたねにして 翌日パンを三つこしらえた

土星が三つ出来た話』
 街かどのバーへ土星が飲みにくるというので しらべてみたらただの人間であった その人間がどうして土星になったかというと 話に輪をかける癖があるからだと そんなことに輪をかけて 土星がくるなんて云った男のほうが土星だと云ったら そんなつまらない話に輪をかけて しゃれたつもりの君こそ土星だと云われた

 『A MOONSHINE』

 Aが竹竿の先に針金の環を取り付けた
 何をするのかとたずねると 三日月を取るんだって
 ぼくは笑っていたが きみ おどろくじゃないか その竿の先に三日月がひッかかってきたものだ
 さあ取れたと云いながら Aは三日月をつまみかけたが 熱ツッと床の上へ落としてしまった すまないがそこのコップを取ってくれって云うから 渡すと その中へサイダーをいれたのさ
 どうするつもりだって問うと ここへ入れるんだって そんなことしたらお月様は死んでしまうよと云ったが なあに構うものかと鉛筆で三日月を挟んで コップの中へほうりこんだ
 シャブン! ってね へんな紫色の煙がモヤモヤと立ち昇った それがAの鼻の孔へはいったもんだ 奴(やっこ)さんハクション! とやる つづいてぼくもハクション! そこで二人とも気が遠くなってしまった
 気がつくときみ 時計は十二時を廻っている それにおどろいたのは三日月のやはり窓のむこうで揺れていたことだ
 Aは時計の針と三日月とを見くらべてしきりに首をふっていたが ふとテーブルの上のコップに気づいて顔色を変えた コップの中には何もなくなっているのだ 只サイダーが少し黄色くなっていたかな Aはコップを電燈の下ですかしながら見つめていたが やにわに口のそばへ持って行った
 止(よ)せ! 毒だよとぼくは注意したが 奴さんは構うもんかと云って その残りのサイダーをグーと飲んじまった きみそれからだよAがあんなぐあいになっちまったのはね
 でもそれからぼくは いくら考えても判らないものだからS氏のところへ行って 話したんだ
 デスクの前でS氏は ホウホウと云って聞いていたが
 まさかと云うから ぼくは
 いや現に眼の前に見たことですよって云うと S氏は フンそれでその晩のお月様は照っていたかいって聞くんだ ぼくは
 そりゃすてきな月夜で そこらじゅう真青でしたと云うと
 S氏はシガーの煙を環に吐いて
 ムーンサンシャインさ! って笑い出したのさ
 いったい話はどうなっているんだって云うのかね? そうさ それが今日に至るまでも判然としないものだから きみにきいてみようと思っていたのだよ

 ではグッドナイト! お寝(やす)みなさい 今晩のあなたの夢はきっといつもとは違うでしょう

── 稲垣足穂『一千一秒物語』

一千一秒物語』(松岡正剛の千夜千冊) http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0879.html