NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

正義の主張は恥ずべきものと心得よ

翁に曰く、

善良というものは、たまらぬものだ。危険なものだ。殺せといえば、殺すものだ。

── 山本夏彦『何用あって月世界へ』


「SEALDs、デモでの『臓器売買』発言を撤回、謝罪 『事実確認をしていなかった』」(J-CAST
 → http://www.j-cast.com/2015/10/21248466.html

 安全保障関連法案に反対する学生団体「SEALDs(シールズ)」の公式ツイッターアカウントが2015年10月21日、デモの中で出た「(日本では)子どもの学費のために裏で自分の内臓を売り、生活をくいつなぐ母親がいます」との発言を撤回、謝罪した。

 発言は、東京・渋谷で10月18日に開かれたデモで飛び出した。同団体の男性メンバーが、日本の貧困問題を説明する中、事例として挙げた。しかし同日、同団体公式アカウントが発言を書き起こしてツイートすると、「そんな事実は無い」「本当にあるなら犯罪だ」といった批判が相次いで寄せられた。

 21日、団体公式アカウントは発言を事実誤認と認め、「当人は、あるシンポジウムで出た話を勘違いしてしまい、事実確認をせずに発言してしまった」と明かした。同時に、その発言を書き起こしたツイートも削除された。

「『この国には子どもの学費のために内臓を売って生活する母親がいます』 SEALDsの街宣スピーチ動画が話題に」(ガジェット通信)
 → http://getnews.jp/archives/1204213
「SEALDsが、渋谷街頭スピーチでの『臓器売買』発言の誤りを認め謝罪」(ライブドアニュース
 → http://news.livedoor.com/article/detail/10732527/



望むらくは、正義の主張者が、正義論もまた猥談のごとく人前で大声に語りにくき恥ずべきものと心得られんことを。

 自分だけの正義というものはなく、正義はつねに主張のうちにある。相手のため、他人のためと言ったこところで、どうしても人を強制することになる。強制それ自体が悪であるばかりではない。どんな正義もその半面には不正と必然悪をともなってをり、そこには人を益するものがあると同時に人を害するものがあるのだ。
 他人にたいする寛容というのは現代的な美徳であるが、昔は独りを慎む礼儀というものがあって、それは主張や表現を事とする文章の世界をも支配していた。たとへばエロティックな事柄を口にする場合、「デカメロン」でも「アラビアン・ナイト」でも、ユーモアやレトリックなしではすまされなかったのである。
 現代でも、そしてもっと低級な春本や猥談においてさえ、やはりそれなりに低級な笑いを、この場合は礼儀とまでは言わぬごまかしの煙幕に用いている。望むらくは、今日の正義の主張者が、正義論もまた猥談のごとく人前で大声に語りにくき恥ずべきものと心得られんことを。

── 福田恆存(『日本への遺言』)

日本への遺言―福田恒存語録 (文春文庫)

日本への遺言―福田恒存語録 (文春文庫)