NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

『事業仕分』を乗り越えて

「大村智氏ノーベル賞受賞で民主党事業仕分けが槍玉」(アメーバニュース)
 → http://yukan-news.ameba.jp/20151006-76/

スウェーデンカロリンスカ研究所は10月5日、2015年のノーベル医学生理学賞を大村智・北里大特別栄誉教授(80)、米ドリュー大・名誉研究フェローのウィリアム・キャンベル氏(85)、中国中医科学院の屠ユーユー氏(84)に贈ると発表した。

 大村氏は、日本の土壌で発見した細菌の作り出す物質が、寄生虫に効果があることを発見。その物質から抗寄生虫薬「イベルメクチン」を開発。当初は動物用の薬として普及したが、その後、動物だけでなく人にも有効と判明。失明することもある熱帯病のオンコセルカ症(河川盲目症)や、リンパ系フィラリア症(象皮症)の特効薬として成果を上げ、年間3億人が使用する。

 大村氏とキャンベル氏は寄生虫病の治療薬の開発、屠氏はマラリアの新治療法が評価され受賞。日本のノーベル賞受賞は2014年に、青色発光ダイオードの発明で受賞した物理学賞の3氏に続き23人目。

 この大村氏のノーベル賞受賞に日本は早くも湧いているが、ネットでは大村氏の受賞を受け、民主党を槍玉にあげる声が書き込まれている。

 民主党は2009年の政権交代時に、国家予算を見直し、無駄を明らかにするため事業仕分けを実施。科学技術・学術関連の予算も対象となり、次世代スーパーコンピュータ開発や、研究への補助金国立大学法人の運営費など予算の削減・凍結が相次いだ。その事業仕分けに対して、利根川進氏や江崎玲於奈ノーベル賞を受賞した科学者など6人が集結し、「事業仕分け結果は、科学技術に関わる人材を枯渇させ、取り返しのつかない状態を引き起こす」と緊急声明を発表していた。

 そうした背景からネットには「民主党政権下だったら、このノーベル賞も無かったかもしれない」「民主党三年三ヶ月の仕分けで科学者の士気を著しく下げましたから、今後のノーベル賞に支障があるでしょうね」などのコメントが書き込まれている。

ノーベル賞ニュートリノ研究、民主と蓮舫氏の『事業仕分』の対象になっていた」(痛いニュース
 → http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1856160.html

行政刷新会議事業仕分け作業ワーキンググループが、「スーパーカミオカンデによるニュートリノ研究」を含む経費を予算縮減と評定


11月25日に、行政刷新会議事業仕分け作業が「国立大学運営費交付金(2)特別教育研究経費」に対して行われ、評定が出されました。「廃止6名、縮減6名、要求どおり2名」との結果を受け、仕分け作業グループの見解として「予算の縮減」ということが示されました。この「特別教育研究経費」の中には、我々が、神岡の地下において推進している「スーパーカミオカンデ」や、国立天文台の「すばる望遠鏡」、高エネルギー加速器研究機構の「JPARC」「B―factory」など、日本を代表する基礎科学研究が含まれています。しかし、研究の意義などは一切議論がなされぬまま、予算全体を一括して縮減しなさい、ということになりました。

スーパーカミオカンデは、ニュートリノ振動の発見により、世界で初めてニュートリノに質量があることを示し、新たな素粒子標準理論構築への突破口を与えています。現在、未発見の最後のニュートリノ振動ともいうべき現象の発見をめざし、東海村のJPARCで作られたニュートリノを、295km離れたスーパーカミオカンデで検出するという壮大な実験が始まっています。この観測に成功すれば、宇宙には、何故反物質がなく物質しかないのかという、物質生成の謎に迫るステップを築くことができます。また、スーパーカミオカンデは、明日にも起こるかもしれない星の最後の爆発である超新星からのニュートリノの飛来に備え、24時間365日、年末年始も休みなく観測を継続しています。このように、これまでのニュートリノ質量の発見という大きな成果のみにとどまらず、今後もいくつかの重要な成果が期待されています。

予算の縮減により、観測が短期間でも止まるようなことになれば、10年から20年に一度しかない超新星からのニュートリノの検出を逃してしまう可能性もあります。また、予算の縮減により、測定器の質を維持することができなくなる可能性もあります。これまで、10年以上かかって、世界のトップになった日本のニュートリノ研究は止まってしまい、継続する研究者も絶えてしまうことでしょう。落ちるのは、早く、瞬く間に科学の2流国、3流国になってしまうでしょう。一度そのようになれば、世界のトップレベルにもどるには、さらに10年、20年とかかることになります。

基礎科学は短期的には、何も役に立たないものと思われるかもしれません。基礎科学は「分からないこと、不思議なことを探索して、真実を知る」ということが本質ですが、何十年か経った後に、思わぬところで役に立つこともあります。80年ほど前に、原子核のふるまいを研究して生まれた量子力学は、今では、半導体の原理を理解するにはなくてはならないものです。アインシュタインの作った一般相対性理論は、90年経って、カーナビゲーションシステムでお馴染みのGPSの基礎を支えています。

スーパーカミオカンデで行っているニュートリノ研究も、今は、物質の成り立ち(素粒子)と宇宙の謎に挑戦していますが、100年後には全く考えもつかなかったものに応用されているかもしれません。皆様の基礎科学研究に対するご理解とご支援を、強くお願いいたします。

2009年11月26日
スーパーカミオカンデ実験代表者 鈴木洋一郎

P.S.
現在、文科省のHPで、事業仕分けに関する、パブリックオピニオンを求めています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm
資料、評価の結果等も、このURLから見ることができます。
是非とも、ご意見を文科省にお寄せいただきますようお願いいたします。

東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設』 http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/whatsnew/new-20091127.html