NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

阿川弘之

「作家の阿川弘之氏が死去 文化勲章受章者、正論執筆メンバー」(産經新聞
 → http://www.sankei.com/life/news/150805/lif1508050036-n1.html
阿川弘之氏死去=作家、端正な鎮魂文学-『山本五十六』『雲の墓標』、94歳」(時事通信
 → http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2015080500886
「【阿川弘之さん死去】作品支えた海軍体験 中庸とユーモア愛し」(産經新聞
 → http://www.sankei.com/life/news/150805/lif1508050039-n1.html

 自身の海軍体験をもとに数々の戦争文学を生み出してきた作家の阿川弘之さんが94歳で亡くなった。「小説の神様」と呼ばれた志賀直哉に師事し、平明で引き締まった名文の書き手として知られた。

 青春時代を過ごした海軍と、戦死した同世代に対する思いは深かった。戦没者は無駄死にだ、とする戦後の風潮に強く反発。「自分の知る本当のことを書き残しておきたい」との思いを抱いたことが、出世作の自伝的小説「春の城」をはじめ、戦争を題材にした作品執筆の原動力となった。代表作の一つ「雲の墓標」は、特攻隊員となった海軍学徒兵の、生と死の間で揺れ動く心情をつぶさに描き、文学性豊かな新しい戦争小説の世界を開拓した。

 太平洋戦争時の3人の海軍大将を描いた評伝「山本五十六」「米内(よない)光政」「井上成美」の提督3部作は、伝記文学の傑作として評価が高い。ともに日独伊三国同盟や日米開戦に反対するなど、時代の熱狂に流されない合理的思考を備えた愛国者だった3人に対する深い共感は、そのまま阿川さんの姿勢にも重なる。

 戦中の軍国主義と同じく戦後の左派的風潮も嫌い、産経新聞「正論」欄で長く健筆を振るった。政治を論じても悲憤慷慨(ひふんこうがい)調にはならず、常に心の余裕を忘れない。「私は右翼も左翼も嫌い」と語り、中庸のバランス感覚と、海軍仕込みの英国流ユーモアを愛した。

 親しい友人だった作家仲間の遠藤周作さんや北杜夫さんらとの交遊を描いたユーモラスなエッセーも多い。乗り物好きでも有名で、各国の鉄道を訪ね歩いた紀行文「南蛮阿房列車」や、年老いた蒸気機関車が主人公の絵本「きかんしゃ やえもん」を生んだ無類の鉄道マニアでもあった。

 満90歳を機に筆をおき、数年前に入院した都内の病院では読書三昧の日々を送っていた。長女の佐和子さんの活躍ぶりには常々、眼を細めていたという。


『2014年01月29日(Wed) 「左警戒、右見張れ」』 http://d.hatena.ne.jp/nakamoto_h/20140129


山本五十六 (上巻) (新潮文庫)

山本五十六 (上巻) (新潮文庫)

米内光政 (新潮文庫)

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井上成美 (新潮文庫)

井上成美 (新潮文庫)

雲の墓標 (新潮文庫)

雲の墓標 (新潮文庫)