NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

優しさと強さと

0日の『産経抄』より。

「優しい心があれば 7月10日」(産経新聞
 →  http://www.sankei.com/smp/column/news/150710/clm1507100003-s.html

 作家の遠藤周作さんが、入院中に看護師から聞いた話である。手術後、苦痛が伴っても、患者に麻酔を与えてはならない場合がある。そんな時は、ただ患者の手を握ってあげるそうだ。すると今までうめいていた患者が、少しずつ静かになる。遠藤さんはいう。「だれかが自分の苦しみをわかちあってくれている」ことを感じるからに違いない(『聖書のなかの女性たち』)。

 岩手県矢巾(やはば)町の中学2年の男子生徒(13)にとって、クラス担任と交わす「生活記録ノート」は、苦悩と孤独感を癒やしてくれる看護師の指先になり得た。4月中旬ごろから、いじめに悩む記述が、目立ってくる。

 「氏(し)んでいいですか?」「もう市(し)ぬ場所はきまってるんですけどね」。あえて「死」という字を避けたのは、「生きたい」とのメッセージともとれる。残念ながら、その悲痛な訴えは、担任を通じて学校に届かなかった。生徒は、列車に飛び込んで死亡した。

 「先生からたくさんの希望をもらいました」。ノートの最後の記述には、担任への感謝の言葉があった。家族の前で気丈に振る舞ったのは、心配をかけたくなかったからだろう。亡くなる数時間前には、同居している祖父の肩をもんでいる。

 「優しい心が一番大切だよ。その心を持っていないあの子たちが、かわいそうなんだよ」。平成10年に自殺した高校1年の女子生徒が、母親に残した言葉である。母親は、いじめの加害者をかばった娘の言葉にちなんで、「ジェントルハートプロジェクト」を立ち上げた。

 優しい心があれば、相手を死に追いやるいじめはなくせるはずだと、いじめ防止活動を続けている。しかし、またも犠牲になったのは、優しい心を持った少年だった。

戦う心を忘れちゃいけない。


我が聖典に曰わく、

 然し、生きていると、疲れるね。かく言う私も、時に、無に帰そうと思う時が、あるですよ。戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。そして、戦うよ。決して、負けぬ。負けぬとは、戦う、ということです。それ以外に、勝負など、ありやせぬ。戦っていれば、負けないのです。決して、勝てないのです。人間は、決して、勝ちません。たゞ、負けないのだ。
 勝とうなんて、思っちゃ、いけない。勝てる筈が、ないじゃないか。誰に、何者に、勝つつもりなんだ。

── 坂口安吾『不良少年とキリスト』