NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

暴走老人

今日の『産経抄』より。


「【産経抄】暴走老人 7月2日」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/150702/clm1507020004-n1.html

 私たちは日頃、若者を危険視して、老人を無害な弱者として扱いがちである。「七十にして心の欲する所に従って、矩(のり)をこえず」と孔子も言っている。

 もっとも現実には、平気で矩、すなわち人の道を踏み外す老人も少なくない。芥川賞作家の藤原智美さんは、『暴走老人!』(文春文庫)でそんな実態を描いて、大きな反響を呼んだ。

 確かに、高齢者の犯罪は増え続けている。最近でも71歳の男が、横浜市内の京浜東北線車内で、会社役員の男性にいきなり包丁を突きつける事件があった。大阪府羽曳野市で、「呪い殺してやる」などと叫びながら近隣住民にいやがらせを続ける74歳の女が、ワイドショーで話題になったばかりだ。

 東海道新幹線の車内で、ポリタンクの油をかぶりライターで火を付け、焼身自殺した男も71歳だった。東京都杉並区で1人暮らしをする男は、日頃から年金の受給額に、不満をもらしていたという。理由はなんであれ、なんの関係もない52歳の整体師の女性も亡くなっている。断じて許せない、放火殺人である。

 藤原さんによれば、暴走の仕方はさまざまだが、「家族の姿や親しい者の存在が感じられない」点が共通している。暴走老人たちは、「より孤立し先鋭化したスタイルで発現させるしかない」という。不幸なことに、その「予言」が当たってしまった。

 世界中を飛び回るドキュメンタリー作家、伊奈笙子(しょうこ)と、エリートビジネスマンの九鬼兼太は、成田からパリに向かう機内のファーストクラスで出会い、恋に落ちる。銀幕の大スター、岸惠子さんが書いた、『わりなき恋』(幻冬舎)は、70代と60代の大人の恋の物語である。現代は、70歳を過ぎた男女が、大恋愛を謳歌(おうか)できる時代でもあるのだが。

暴走老人! (文春文庫)

暴走老人! (文春文庫)

わりなき恋 (幻冬舎文庫)

わりなき恋 (幻冬舎文庫)


翁にも曰く、

白髪は知恵のしるしではない。

── 山本夏彦『何用あって月世界へ』