NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

穢(きたな)いはきれい

昨日の産経抄より。
「【産経抄】穢いはきれい 6月5日」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/column/news/150605/clm1506050004-n1.html

 シェークスピアの悲劇『マクベス』の冒頭、3人の魔女の台詞(せりふ)が、観客を混乱に導く。「きれいは穢(きたな)い、穢いはきれい」(福田恆存訳、新潮文庫)。一体、どういう意味だろう。

 千葉県香取市香取神宮に、油のような液体をまいた疑いで、ニューヨーク在住の医師の男(52)に、逮捕状が出た。男が日本に滞在していた3月下旬、レンタカーで千葉と関西を往復していた事実もわかっている。

 奈良や京都の寺社や仏像も、同じような被害を受けている。国宝や国の重要文化財も含まれていた。すべての事件の解決につながるなら、喜ばしい。ただ、ネットで公開されている集会での男の言動は、魔女の台詞のように、理解不能である。貴重な文化財を汚す行為を、「呪われた寺社を油で清めた」、あるいは「悪霊を追い払った」と説明していた。「穢いはきれい」ということか。

 東京出身の男は、17歳の時に韓国系牧師が創立した教会でキリスト教と出合った。その後渡米して産婦人科医として働きながら、宗教団体を設立して、布教活動を続けてきたという。確かにカトリックの世界では、「悪魔祓(ばら)い」の儀式が今も行われている。オリーブ油が使われる場合もあった。とはいえ、他の宗教への冒涜(ぼうとく)とは、まったく無関係である。

 マクベスは、魔女たちにそそのかされて、王を殺し、数々の悪行を重ねていく。男は魔女ではなく、「神に命じられている」と語っている。

 男は4月末に、ニューヨークから成田経由でフィリピンのマニラに向かう予定だったが、急遽(きゅうきょ)ルートを変更した。捜査を警戒して、日本への立ち寄りを見合わせているとみられる。自らの行動を正しいと信じているのなら、堂々と帰国して、公の場で主張すればいい。

「【油まき】『呪われた日本を油で清めた』『震災は神の意志』逮捕状の男、集会で主張」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/affairs/news/150601/afr1506010033-n1.html
「『3年前から「神社に油」』教団元関係者の女性証言 『教義は個人崇拝』」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/affairs/news/150602/afr1506020011-n1.html



キリスト者でもあった山本七平は「内心の伝道」という言葉を残しています。

 批判とは外部から行うことであり、伝道とはその中に入って、その中の人のわかる言葉で語ることである。

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 いったい、いまわれわれは、ある集団、たとえば創価学会の中に入っていって、そこの言葉で、その人たちが受け入れられる言葉で福音を語れるであろうか。その人たちへの「内心の伝道」をもっているだろうか。
 もちろん、批判はできる、しかしそれは「内心の伝道」をもっていることではなく、時には逆に、相手と自分の間を遮断してしまうにすぎない。そして、そういう相手にタッチしないことが、何やら自分の中に、清浄な信仰を保っていることの証拠であるかのように錯覚する。
 そのときその人には、その相手への「内心の伝道」はすでにもっていなかったと考えるべきであろう。そしてこの「内心の伝道」を失ったとき、それは個人としても宗教団体としても、その生命を失ったときであろうと私は思う。

── 山本七平『静かなる細き声』

他の宗派、宗教を批判攻撃するのではなく、相手の中に入って相手にわかる言葉で語る。それが本来の伝道であり布教ではあるまいか。


マクベス (新潮文庫)

マクベス (新潮文庫)