NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

カール・セーガンに学ぶ

「天体物理学カール・セーガンに学ぶ、物事を正確に見抜くテクニック」(ライフハッカー[日本版])
 → http://www.lifehacker.jp/2015/02/150212_carlsagan.html


テレビ番組「Cosmos」のホストとして有名な故カール・セーガン氏は、天体物理学者、作家と、多くの肩書を持っていました。科学のみならず、生活全般に対するセーガン氏の考え方は、示唆に富むと同時に、私たちを元気づけてくれます。そのアイデアをいくつか紹介しましょう。


自分の「トンデモ話検出キット」を研ぎ澄ませ

セーガン氏は、何よりもまず科学者でした。世界を特別な視点で見ていたセーガン氏は、著書『人はなぜエセ科学に騙されるのか』(原題:『The Demon Haunted World』)において、「トンデモ話検出キット」というアイデアの概要を示しています。彼が提唱したこのキットは、議論をテストして、間違った考えを見つける手段。懐疑的思考に素晴らしい効果を発揮するツールです。その一部を紹介します。

  • 「事実」を提示されたら、独立した裏づけをできるだけたくさん取るようにしよう。
  • 証拠を出されたら、さまざまな観点を持つ人たちに、しっかりした根拠のある議論をしてもらおう。
  • 権威のある人の言うことだからといってあてにしないこと。権威はこれまでも間違いを犯してきたし、今後も犯すかもしれない。こう言えばわかりやすいだろう。「科学に権威はいない。せいぜい専門家がいるだけだ」
  • 仮説は1つだけでなくいくつも立てること。まだ説明のつかないことがあるなら、それが説明できそうな仮説をありったけ考え出そう。次に、こうやって得られた仮説を、かたっぱしから反証していく方法を考えよう。このダーウィン主義的-な選択をくぐり抜けた仮説は、単なる思い付きの仮説にくらべて、正しい答えを与えてくれる見込みがずっと高いはずだ。
  • 自分の出した仮説だからといって、あまり執着しないこと。仮説を出すことは、知識を手に入れるための一里塚にすぎない。なぜそのアイデアが気に入ったのかを自問してみよう。そして、ほかのアイデアと公平に比較しよう。そのアイデ-アを捨てるべき理由がないか探してみよう。あなたがそれをやらなければ、ほかの人がやるだろう。

もちろん、このキットは科学専用ではありません。大統領候補討論会でも統計学でも、何に対しても効果を発揮するのです。そのような議論の際に先入観に立ち向かうことで、より良い視点を持つことができます。このツールは、仕事での討論、学校での発表、夕食時の活発な議論にも有効です。長い目で見れば、トンデモ話の検出がうまくなるほど、いい議論ができるようになるでしょう。


自分の信念を詳しく調査する

何かを信じたいと思ったら、証拠がなくても本当だと思い込むことは簡単です。娘に死後の世界について聞かれたセーガン氏は、次のように答えたことがあるそうです。

父はとても優しく、こう言いました。「真実だと思いたいという理由だけで、物事を信じるのは危険だ。自分に対しても、他人(特に権威のある人)に対しても、疑問を投げかけることをやめてしまったら、だまされるかもしれない。本当の真実は、どんなに詳しい調査にも耐えうるものなんだ」と。

この言葉は、死後の世界に対する信念に影響を与えるものではありません。それよりもセーガン氏が伝えたかったのは、常に自分を省みること。誰もが、「特定のモノが好き」「自分が1番」といったように、自分をだまし続けています。本当だと思いたいがゆえに自分を洗脳し、そのせいで新しいモノを発見できないでいるのです。


宇宙の中での自分の場所を知る

私たちはつい、自分の問題ばかりにとらわれて、世界が見えなくなってしまうことがあります。でも、カール・セーガン氏の有名なスピーチ「Pale Blue Dot」を聞くと、目の前の問題がどんなに大きいように思えても、大きな視点で見ると大した問題ではないのだと思い出させてくれます。

この薄い光を放つ点(訳注:宇宙から見た地球)を見れば、私たちの見せかけの態度、思い込みによるうぬぼれ、この宇宙の中で優位な立場にあるという妄想に対して疑問を抱かずにはいられなくなる。この惑星は、広大な宇宙の闇に包まれた、孤独な点なのだ。この広大な宇宙のどこかから、私たち自身の愚かさから私たちを救ってくれる助けが来る兆しはない。

著書やテレビ番組で、このことを何度も訴え続けていたセーガン氏。娘にも、同じような考えを話していたといいます。

「今この瞬間、君は生きている。それは、素晴らしいことだ」と両親は言いました。「これから無限の数の分岐があって、そこからすべての人間が生まれてくるのだと考えたら、いま自分が生きていることに感謝しなくちゃならない。どれだけ莫大な数の宇宙が想定されるか、考えてごらん。たとえば、君のおじいちゃん・おばあちゃんのさらにおじいちゃん・おばあちゃんが出会わなかったら、君が生まれることはなかった。

それに、君は今、空気を吸い、水を飲み、いちばん近い星の温かさを感じることができる惑星に生きるという喜びを享受している。DNAによって、先祖代々とつながっている。さらに話を戻せば、宇宙ともつながっているんだ。なぜなら、君の身体のすべての細胞は、星々の内部で作られたのだから」と。父の有名な言葉に「私たちは星の材料でできている」があります。そのことを、父はこうして実感させてくれたのです。

要約すると、それはつまり、視点のことです。セーガン氏ほど遠くまで行く必要はありませんが、人々の世界観は、それぞれに少しずつ異なることを覚えておいてください。否定的な考え方や問題、嫌な思い出に遭遇した時、視点を変えて対処することで、必ずそれに見合った価値を得ることができます。


自分の知識を多様化する


私たちは、1つの分野に立ち止って、その中で考え込んでしまうことがあります。でも、副業を持つことには価値があり、食いっぱぐれないためにも、スキルの多様化は有効です。セーガン氏はこのことを知っていて、宇宙について考えると同時に、その他の研究にもたくさんの時間をつぎ込んでいました。アメリカ議会図書館に保存されている彼の読書リストから、他分野の本をたくさん読んでいたことがわかります。その一部を紹介します。

  • アンドレ・ジッド著 『背徳者』(『The Immoralist』)
  • W.T. Jones著『The History of Western Philosophy』
  • Robert Maynard著『Education for Freedom』

このほかにも、オルダス・ハクスリーレイ・ブラッドベリの小説など、意外な本をたくさん読んでいたことがわかります。セーガン氏は、科学の枠を越えて知識を多様化することがクリエイティブシンキングに欠かせないと知っていたのです。そして、その効果は実に明白です。セーガン氏は優秀な科学者であっただけでなく、語り手としても、コミュニケーターとしても、素晴らしい功績を残したのですから。

 懐疑的思考とは、筋の通った議論を組み立てたり、それを理解したりするための手段である。わけても重要なのは、人を惑わすごまかしを見破ることだ。大切なのは、推論によって引き出された結論が気に入るかどうかではなく、その結論が、前提ないし出発点からきちんと導かれたものかどうか、そしてその前提が正しいかどうかなのである。

── カール・セーガン『カール・セーガン 科学と悪霊を語る』

人はなぜエセ科学に騙されるのか〈上〉 (新潮文庫)

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COSMOS 上 (朝日選書)

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