NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

菜の花忌

 司馬遼太郎は、けっして読者を萎縮させない。逆に、やさしく励まして、元気づける。面白く、興じて、談笑をさそう。陽気で、活発な、心おどりを生む。人の世の、むつかしさ、を描きながら、意気を消失させないのである。ハッパをかける、のではなく、慰撫して、医(いや)す、のである。いや、単に、医す、と言ったのでは当をえない。心の病気にならぬよう、あらかじめの治療をほどこすのである。すなわち、精神の衛生学、である。病に至らぬための、日常不断の手当である。まだ一般的ではないが、未病(みびょう)、という言葉がある。病に至らぬための工夫と手当を指す。病におちいってからでは遅い。医学の極意は未病であろう。司馬遼太郎の述作は、精神の未病学、とも言えようか。司馬遼太郎の作品を読みうること、それは、現代人のおおいなる幸福である、と私は信じる。

── 谷沢永一 (『司馬遼太郎の贈りもの』


今日は菜の花忌。
平成8年(1996年)2月12日、司馬遼太郎 没。


司馬遼太郎記念館』 http://www.shibazaidan.or.jp/

 歴史とはなんでしょう、と聞かれるとき、
「それは、大きな世界です。かつて存在した何億という人生がそこにつめこまれている世界なのです。」
と答えることにしている。
 私には、幸い、この世にたくさんのすばらしい友人がいる。
 歴史の中にもいる。そこには、この世では求めがたいほどにすばらしい人たちがいて、私の日常を、はげましたり、なぐさめたりしてくれているのである。

── 司馬遼太郎 (『十六の話』

坂の上の雲〈1〉 (文春文庫)

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峠 (上巻) (新潮文庫)

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燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫)

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城塞 (上巻) (新潮文庫)

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空海の風景〈上〉 (中公文庫)

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