NAKAMOTO PERSONAL

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単調な日々を変えたかったら

「単調な日々を変えたかったら【1】毎朝、声に出して読みたい金言≪哲人の言葉≫」(PRESIDENT Online)
 → http://president.jp/articles/-/14201

 単に部屋の中で思索にふけるのではなく、外に出て自ら行動を起こすことで人間関係を深く洞察してきた哲人の言葉から真に豊かに生きる術を『超訳 ニーチェの言葉』の著者・白取春彦氏が解き明かす。


1.人生について考えるベストな方法はあるのか

 ニーチェの言葉は、一貫した思想に基づいたものというより、時々の気分から発せられているものが多いのが特徴です。彼は、日常的に胃痛や偏頭痛に悩まされていて、床に伏している時間も長かった。身体的には相当しんどい人生を送った哲学者です。でもその分、覚醒しているときには強烈な言葉を生み出せました。

 そんなニーチェの言葉に通底しているのは、しんどい自分を超えて、新しい自分になろう、今を変えようという前向きな姿勢です。ニーチェは誤解されやすい哲学者です。多くの人がニーチェに暗くて難解なことをいっているというイメージを持っていますけど、違うんですね。彼の言葉には「強い自分になろう」という思いがあふれています。

 「人生について考えるのは暇なときだけにせよ」
 人生のことを考えてもよいが、それは休暇のときにすることだ。
 普段は仕事に専念しよう。自分がやらなければならないことに全力を尽くそう。解決すべき問題に取り組もう。それが現実をしっかり生きることだから。
 ニーチェ

 「人生について考えるのは暇なときだけにせよ」という言葉は、そのまま読むと、「人生のことを一生懸命考えても仕方がない」というふうに、人生を軽視しているように思えるかもしれません。でも、そうではない。人生のことを考えてもいいけれど、それは休暇のときにすることであって、普段は仕事に専念しよう、というのがニーチェのいおうとしていることです。

 なぜ、暇なとき以外に人生のことを考えてはいけないのでしょうか。

 たとえば、仕事中に人生のことを考えてしまうのは、たいてい仕事でうまくいかないことがあったり、仕事がイヤになったりして、逃避したい気持ちがあるから。仕事のことを考えたくないから、人生のことを考えているフリをしているのです。そういう状態で頭の中で人生についての理屈をこねまわしても、ポジティブな気持ちは持てません。

 だからニーチェは、仕事に専念することが大切だというのです。ニーチェには「仕事が自分を強くする」という言葉もあります。仕事に打ち込んでいる人は、自分に迷わないし、たじろがない。仕事によって心と人格が鍛錬され、ブレない自分がつくりあげられる。ニーチェの言葉を読むと、人間が強くなるためには仕事に熱中することが不可欠だということがわかります。

 人間は何かに夢中で没頭しているときには、余計なことを考える暇がないので邪念が入りません。目の前にあるやらなければいけないこと、解決しなければならない問題に全力を尽くして取り組むことが、新しい自分をつくる糧になります。

 自分を変えるというと、今の自分を否定することのように考えられがちですが、それは間違いです。自分にできることを無我夢中でやることが、自分を変えていくのです。


2.なぜ余計な心配や悩みを抱え込んでしまうのか

 ヴィトゲンシュタインは職業的な学者をとことん嫌っていた哲学者です。たいていの学者は大学で給料をもらっているサラリーマンなのに、「哲学者」という肩書にあぐらをかいて、立派そうなことをいっているからです。

 そういったサラリーマンによく見られるのが「直線的に物事を考える癖」です。サラリーマンにかぎらず、現代人は時間を一直線に流れていくものだと考えます。でもヴィトゲンシュタインは、はたしてそうかと疑問を投げかけました。

 「直線的に考える癖」
 私たちはいつも直線的に物事を考える癖がある。
 たとえば自分の将来について思いを巡らすとき、今の自分の状況から将来がどう直線的につながっていくかというふうにまっすぐな線を引いて考えることが多い。
 また、世界がこれからどうなるかということを考えてみるときですら、今の世界の動きがさらに進展していくという前提で未来の予想を立ててしまうのだ。
 今の世界の動きから突如にして変貌していくとか、そのつど世界が変化を続けていくといったふうに考えたりはしないものだ。
 しかし、実際の世界はそういうふうに動いているのではないか。
 ヴィトゲンシュタイン

 時間が一直線に流れるという考え方は、今日が原因となって、その結果として明日があるというふうに、何事も単純な因果関係(原因と結果の関係)で捉える態度に結びつきます。だから、自分の将来も、今の延長上で考えるようになる。

 しかし、実際の世界はそんなに単純には動いていません。たとえば、今の気分の延長で、明日の感情があるとは誰も考えない。感情というものは、恋人の一言ですぐに変わる。それなのに、なぜか人間は、自分の将来について考えると、現在を基準点にして、その延長上でキャリアプランのようなものを立ててしまう。

 なぜ、それがまずいのでしょうか。こういう直線的な考え方に縛られてしまうと、くだらない法則的な思考にひっかかってしまうからです。たとえば、今期の営業成績が悪いと、その先もきっとうまくいかないと落ち込んでしまう。

 でも、そもそも「今期の営業成績が将来の成績を決める」という結びつき自体、思い込みでしかありません。そんな法則が事実としてあるわけではありません。ところが、直線的な考え方が染み付いてしまうと、こういう思い込みを事実と勘違いするようになってしまうのです。

 そういう人に勧めたいのは、自分の悩みや不安をすべて箇条書きで書き出すことです。そして、翌日それを見直してみましょう。そのとき、事実ではないもの、思い込みや感情でしかないものは横線を引いて消していきます。そうすると、たいていの場合、事実は1つか2つしか残りません。あとはすべて余計なことばかりなのです。

 課題が1つや2つなら、自分がやらなければならないことがはっきりします。余計なことは考えず、まずはその問題に取り組みましょう。


ツァラトゥストラは、かく語りき。

高く登ろうと思うなら、自分の脚を使うことだ。高いことろへは、他人によって運ばれてはならない。人の背中や頭に乗ってはならない。

── フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』