努力論
「【産経抄】努力する才能 11月14日」(産経新聞)
→ http://www.sankei.com/column/news/141114/clm1411140003-n1.html
スポーツや芸術の世界で偉業を成し遂げた人たちは、生まれながらの才能に恵まれているのか、それとも努力の結果なのか。米ミシガン州立大学のザック・ハンブリック教授が、今年6月に学術誌に発表した論文によれば、「両方が相互に作用する」。
850組の双生児を対象にした調査から、遺伝子の影響力は、努力によってより大きくなることが分かった。今月初め、16歳1カ月の史上最年少で、女流本因坊のタイトルを獲得した囲碁棋士の藤沢里菜(りな)さんにも、当てはまる理論だ。里菜さんは、故藤沢秀行名誉棋聖の孫娘である。
今週発売の「週刊新潮」によると、6歳で囲碁を覚えて、11歳6カ月でプロになるまで、母親からテレビとゲームを禁止されていた。平日は午後から深夜まで、土日は朝から晩まで、まさに365日囲碁漬けだった。今春中学を卒業した後は進学せず、ますます勉強に励んでいる。
里菜さんが10歳のとき、83歳で亡くなった祖父には、「最後の無頼」の異名があった。酒豪で鳴らし、競輪、競馬などギャンブルにおぼれ、女性関係も華やかだった。それでも、碁の勉強だけは、誰にも負けない自負があった。
色紙を頼まれると、好んで書いたのが、「膝錐之志(しっすいのこころざし)」の4文字だった。中国の戦国時代、強国の秦に対抗するために、6カ国の「合従」を画策した蘇秦(そしん)が、その準備のために眠くなると膝に錐(きり)を立てて勉強したという故事に由来する。「強烈な努力」という言葉も残した名棋士を、もちろん里菜さんは、師匠として尊敬している。
ハンブリック教授は、努力する才能も受け継がれる、ともいう。この理論も、里菜さんに当てはまる。ただ、努力の嫌いな人の言い訳に使われる恐れがありそうだ。
幸田露伴が言うには、、、
努力には二つある。
“直接の努力”と“間接の努力”とである。
なぜ努力が報われないのか!?
曰く、「それは努力の方向が悪いからであるか、しからざれば間接の努力が欠けて、直接の努力のみが用いらるるためである。」と。
そんな訳で、(何度も書いているけれど)久方ぶりに幸田露伴の『努力論』。
『初刊自序』(抜粋)
努力とは一である。しかしこれを察すれば、おのずからにして二種あるを観る。一は直接の努力で、他の一は間接の努力である。間接の努力は準備の努力で、基礎となり源泉となるものである。直接の努力は当面の努力で、尽心竭力(けつりょく)の時のそれである。
人はややもすれば努力の無効に終ることを訴へて嗟嘆(さたん)するもある。しかれど努力は功の有と無とによって、これを敢てすべきや否やを判ずべきでは無い。努力ということが人の進んで止むことを知らぬ性の本然であるから努力すべきなのである。そして若干の努力が若干の果を生ずべき理は、おのづからにして存して居るのである。
ただ時あって努力の生ずる果が佳良ならざることもある。それは努力の方向が悪いからであるか、しからざれば間接の努力が欠けて、直接の努力のみが用いらるるためである。無理な願望に努力するのは努力の方向が悪いので、無理ならぬ願望に努力して、そして甲斐(かい)のないのは、間接の努力が欠けて居るからだろう。
瓜の蔓(つる)に茄子(なすび)を求むるが如きは、努力の方向が誤って居るので、詩歌の美妙なものを得んとして徒(いたず)らに篇を連ね句を累(かさ)ぬるが如きは、間接の努力が欠けて居るのである。誤った方向の努力を為すことはむしろ少ないが、間接の努力を欠くことは多い。詩歌の如きは当面の努力のみで佳なるものを得べくはない。不勉強が佳なる詩歌を得る因にはならぬが、ただ当面の努力のみによって佳なる詩歌が得らるるものではない。
努力は好い。しかし努力するということは、人としてはなお不純である。自己に服せざるものが何処かに存するのを感じて居て、そして鉄鞭を以てこれを威圧しながら事に従うて居るの景象がある。
努力して居る 、もしくは努力せんとして居る、ということを忘れて居て、そして我が為せることがおのずからなる努力であって欲しい。そうあったらそれは努力の真諦であり、醍醐味である。
努力して努力する、それは真のよいものではない。努力を忘れて努力する、それが真の好いものである。しかしその境(さかい)に至るには愛か捨(しゃ)かを体得せねばならぬ、然らざれば三阿僧祇劫(さんあそうぎごう)の間なりとも努力せねばならぬ。愛の道、捨の道をこの冊には説いて居らぬ、よってなおかつ努力論と題している。
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