学而不思則罔、思而不学則殆
「【産経抄】父の背中に何を学んだのか 10月19日」(産経新聞)
→ http://www.sankei.com/column/news/141019/clm1410190003-n1.html
作家の阿川弘之さんは、末のご子息と『論語』の素読に凝った時期がある。夕飯前に差し向かいで「子(し)曰(いわ)ク、学ビテ時ニ之ヲ習フ、亦(また)説(よろこ)バシカラズヤ」の一節を、暗記するまで繰り返す。ご子息がそらんじるようになれば、翌日は次の一節という具合に。
この試みは、原稿の締め切りやら何やらで長く続かなかったようだ。「ちょっと惜しいことをした」と阿川さんは『大人の見識』(新潮新書)に書いている。学んだことは、おさらいしてこそ身につくもの。これは小学生でも分かる。手本に恵まれた政界のセンセイ方なら、なおのことであろう。
と思っていたら、うちわの配布で野党の突き上げをくう女性閣僚に続き、今度は小渕優子経済産業相に政治資金疑惑である。関連の政治団体が支持者向けに行った「観劇会」で、費用の収支に約2600万円の食い違いが露見した。
贈答用なのか、ブランド品やネギなどの購入も疑われる。金銭感覚の乏しさにあきれるが、公職を隠れみのにした宝飾に飽食では言葉もない。小渕氏は調査結果の公表を待たずに、閣僚の辞意を固めたという。同情の余地はない。
父で元首相の恵三氏には「凡人」の世評が残る一方、小欄の大先輩、石井英夫氏らコラムニストとの厚い交友録も残る。まぶたに像を結ぶのは市井の感覚を肌に宿した政治家の顔だ。「女性の活躍」を象徴した小渕経産相の前途まで否定する気はないが、父の背中に何を学んだのか自省は求めたい。
論語はこうも説く。「子曰ク、学ンデ思ワザレバ則(すなわ)チ罔(くら)シ。思ウテ学バザレバ則チ殆(あや)ウシ」(為政十五)。学んで考え、考えて学べと。為政者の心得るべき「いろは」であろう。有権者がおさらいの猶予を与えるかどうかは別問題として。
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