超人たれ!
1900年8月25日 フリードリヒ・ニーチェ 没
ニーチェブームも終わり、最近の流行りはアドラーのようですが。
彼の“超人”、“永劫回帰”の思想は、安吾と並ぶぼくの精神的主柱であり、生きる指針。
アンチクリスト。
同情や隣人愛を否定し、超人への道を説いた。
同情や隣人愛へ逃げるのではなく、弱い者が身を寄せ合うのではなく、独りの人間として強く生きる。
それが、“力への意志”であり、“超人”への道である。
見よ! わたしはあなたがたに“おしまいの人間”(末人)を描いて見せよう!
『愛とは何か? 創造とは何か? 憧れとは何か? 星とは何か?』 ── 末人はそう尋ねて、まばたきする。
そのとき地球は小さくなっている。小さな地球の上に、すべてを小さくする末人がぴょんぴょん飛び跳ねている。この種族は蚤のように根絶しがたい。末人はもっとも永く生き延びる。
『われわれは幸福を発明した』 ── 末人たちはそう言って、まばたきする。
彼らは暮していくのに厳しい土地を見捨てた。なぜなら暮していくには温みが必要だからである。そのうえ隣人を愛して、隣人に体をこすりつける。温みが必要だからである。
病気になることと不信を抱くこととは、彼らにとっては罪である。彼らは歩き方にも用心深い。石に躓く者、あるいは人に躓く者は愚者とされる!
ときどき少量の毒を用いる。それは快い夢を見させてくれるからである。そして最後に大量の毒を用い、快き死に至る。
彼らもやはり働く。働くことは慰みになるからだ。しかしこの慰みが身を損ねるこねることがないように気をつける。
彼らはもはや貧しくなることも、富むことない。どちらも煩わしすぎるのだ。誰ももう統治しようとしない。誰ももう服従しようとしない。どちらも煩わしすぎるのだ。
牧人は存在しない。存在するのはただ一つの畜群だけである! 誰でもみな平等を欲し、誰でもみな平等である。それに同調できない者は、すすんで気違い病院に入る。
『昔は世の中全部が狂っていたのだ』 ── そう洗練された人士は語り、まばたきする。
彼らは怜悧であり、世に起こったいっさいについて知識をもっている。だから彼らの嘲笑の種子はつきない。彼らもやはり争いはする。しかしすぐに和解する。さもなければ、胃をそこなうことになるからだ。
彼らはささやかな昼の快楽、ささやかな夜の快楽をもっている。だが健康をなによりも重んじる。
『われわれは幸福を発明した』 ── 末人たちはそう言って、まばたきする ──
ぼくたちは好敵手から手加減されたくない
また自分が心底から愛している人達からも
そのように扱われたくない
だから、敢えて真実を語ることを許せ!
── 第一部 『戦争と戦士』
君は君の友の前では衣服を脱ぎたいと思うのか?
君がありのままの自分を彼に見せるのは
君の友にとっての栄誉だというのか?
だが彼は、そいつはまっぴたごめんだというだろう!
君は友のためには、どんなに我が身を美しく飾っても飾りすぎることはない
君の同情は推察でなくてはならない
君の友が同情を欲しているかどうか
まずわかっていなければならない
友への同情は堅い殻の下に潜んでいるのがいい
同情を味わおうとして噛めば
歯が折れるほどでなければならない
そのくらいで同情に微妙な甘みが出てくるだろう
君は奴隷なのか?
では、君は友になることが出来ない
君は専制君主なのか?
では、君は友を持つことが出来ない
── 第一部 『友』
私は他人に同情することで
同時におのれの幸福をおぼえるような
あわれみ深い人たちを好まない
彼らはあまりにも羞恥の念にとぼしい
たとえぼくが同情するとしても
遠くからそれをしたい
わたしは悩む者を助けた自分の手を洗う
悩む者がその悩みをぼくに見られたとき
わたしそのためのかれらの羞恥を察して
みずから羞しく思ったからだ
それにかれを助けたとき
わたしはかれの誇りを苛酷に傷つけたのだから
── 第二部 『同情者たち』
「私の理想は、目障りにならぬような独立性、それとわからぬ静かな誇り、つまり、他人の名誉や喜びと競合せず、嘲弄にも耐えることによって得られる、まったく他人に負い目のない誇りである。このような理想が、私の日常の習慣を高貴なものにせねばならぬ。」
── フリードリヒ・ニーチェ『遺された断想』
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