NAKAMOTO PERSONAL

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『吉田調書の真実』

「【吉田調書】『朝日新聞は事実を曲げてまで日本人をおとしめたいのか』 ジャーナリスト、門田隆将氏」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140818/dst14081811160008-n1.htm

 東京電力福島第1原発事故で現場指揮を執った吉田昌郎所長に対する「吉田調書」について、吉田氏らを取材したジャーナリスト、門田隆将氏が寄稿した。

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 産経新聞が入手した「吉田調書(聴取結果書)」を読んで、吉田昌郎所長と現場の職員たちの命をかけた闘いのすさまじさに改めて心を動かされた。「本当に感動したのは、みんな現場に行こうとするわけです」と、危機的な状況で現場に向かう職員たちを吉田氏は褒めたたえている。

 いかに現場が事態を収束させようと、そして故郷、ひいては日本を救おうと頑張ったのかがよくわかる内容だ。

 私は拙著『死の淵(ふち)を見た男』の取材で、吉田氏や現場の職員たちに数多くインタビューしている。どんな闘いが繰り広げられたかは取材を通じて知っていたが、その時のことを思い出した。

 また、菅直人首相や細野豪志首相補佐官らとの電話によって、事故対策を講じる吉田氏の貴重な時間がいかに奪われていたかもよくわかる。くり返される官邸からの電話に「ずっとおかしいと思っていました」と吉田氏は述べている。

 特に細野氏が毎日のように電話をかけてきたことで、吉田氏が相当困惑していた様子が伝わってくる。

 全員撤退問題については、「誰が撤退と言ったのか」「使わないです。“撤退”みたいな言葉は」と、激しい口調で吉田氏が反発しているのも印象的だ。吉田氏がいかにこの問題に大きな怒りを持ち、また当時の民主党政権、あるいは東電本店と闘いながら、踏ん張ったかが伝わってくる。

 それにしても朝日新聞が、この吉田調書をもとに「所員の9割が所長命令に違反して撤退した」と書いたことが信じられない。自分の命令に背いて職員が撤退した、などという発言はこの中のどこを探しても出てこない。

 逆に吉田氏は、「関係ない人間(筆者注=その時、1F〈福島第1原発〉に残っていた現場以外の多くの職員たち)は退避させますからということを言っただけです」「2F(福島第2原発)まで退避させようとバスを手配したんです」「バスで退避させました。2Fの方に」と、くり返し述べている。

 つまり、職員の9割は吉田所長の命令に“従って”2Fに退避しており、朝日の言う“命令に違反”した部分など、まったく出てこない。

 だが、朝日の報道によって、世界中のメディアが「日本人も現場から逃げていた」「第二のセウォル号事件」と報じたのは事実だ。最後まで1Fに残った人を「フクシマ・フィフティーズ」と称して評価していた外国メディアも、今では、所長命令に違反して所員が逃げてしまった結果にすぎない、という評価に変わってしまった。

 事実と異なる報道によって日本人をおとしめるという点において、先に撤回された慰安婦報道と図式がまったく同じではないか、と思う。

 なぜ朝日新聞は事実を曲げてまで、日本人をおとしめたいのか、私には理解できない。


「【産経抄】吉田調書の真実 8月19日」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140819/dst14081903040001-n1.htm

 同じ文献から、百八十度違う解釈が生まれる。歴史の研究では、珍しくない。卑弥呼が率いた邪馬台国はどこにあったのか、江戸時代から続く議論もその一つである。中国の史書「魏志倭人伝」の中の2千字足らずの記述の解釈が、最大の争点となってきた。

 小紙が昨日取り上げた、いわゆる「吉田調書」はどうだろう。東京電力福島第1原発事故の発生時、所長だった故吉田昌郎(まさお)氏が、政府の事故調査・検証委員会の聞き取り調査に答えたものだ。こちらはA4判で約400ページにも及ぶとはいえ、普通の日本語で書かれている。それなのに、先に入手した朝日新聞の今年5月の報道とは、大きく異なる内容だった。

 たとえば、最大の危機を迎えた平成23年3月15日朝、所内で何が起こっていたのか。朝日は所員の9割に当たる約650人が、吉田氏の待機命令に違反して、福島第2原発に撤退した、と報じた。パニックに陥った職員が、一斉に職場放棄する。そんな光景が、目に浮かぶような記事である。

 しかし、調書を素直に読めば、実態はまったく違う。吉田氏によれば、あくまで命令の伝言ミスであり、「命令違反」の認識はなかった。第2に退避した所員の多くが、昼頃までに戻っているのが、何よりの証拠だ。調書でむしろ目立つのは、現場で奮闘する職員に対する、吉田氏の称賛の声である。

 朝日の記事を引用して、韓国ではセウォル号事故と同一視する報道もあったという。門田隆将(りゅうしょう)さんが指摘するように、慰安婦報道と同じ構図である。

 職務を全うした職員の名誉のためにも、政府は吉田調書の全文を公開すべきだろう。吉田氏が、強い憤りを込めて「あのおっさん」と呼んだ菅直人元首相まで、賛成しているのだから。

「【吉田調書】朝日新聞の報道は『所長命令に違反し、所員の9割が原発撤退』」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140818/dst14081810040005-n1.htm
「【吉田調書】ヒーローが一転「逃げ出す作業員」「恥ずべき物語」に 朝日報道、各国で引用」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140818/dst14081816020012-n1.htm
「【吉田調書】第2への退避、吉田氏「正しかった」 元所員「命令違反ではない」本紙に証言」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140818/dst14081816000013-n1.htm
「【吉田調書】『あのおっさんに発言する権利があるんですか』 吉田所長、菅元首相に強い憤り」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140818/plc14081805000002-n1.htm

 新聞はあくまで事実の報道という形で、国民を一定の方向に追いやることができますが、さらにその限度を超えて、最初から「世論はこうだ、こうだ」と国民の頭上におっかぶせていくとなると問題です。ことに一般の国民は難解拙劣な政治記事を読まずに、見出しや煽情的な社会面を読みがちですから、そういう工作は易々たるものです。もちろん、国民の大部分は動かされはしませんでした。

── 福田恆存『輿論を強ひる新聞』