六月二十九日 君子は愚かなるがごとし
相当の地位を保ち、社会の信用を得ている人を指して、その地位を支えているのは、まったくの偶然であるかのように言う人がいるが、よく調べてみると、やはりその人にはすぐれているところがあるのを見出すことが多い。一見して愚かな人間と侮ることがあってはならない。一見して気が利いていると思える者こそあやしいものである。
うかうかと暮らす瓠瓜(ふくべ)と思ひしに
腰のあたりにくゝりめぞある
能ありて心ゆがめし人よりも
なくて直ぐなる人ぞ貴き
── 新渡戸稲造(『一日一言』)