NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

人間は生きることが、全部である。

自殺なんて、なんだらう。そんなものこそ、理窟も何もいりやしない。風みたいに無意味なものだ。

── 坂口安吾『教祖の文学』


「昨年の自殺者、5月が最多 政府白書、追い込まれる前の支援急務」(産経新聞
 → http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140603/plc14060315340014-n1.htm

 政府は3日の閣議で平成26年版自殺対策白書を決定した。25年の月別の自殺者は5月が最多となった。入学や異動などによる生活の変化が背景にあることがうかがえる。白書では自殺を「追い込まれた末の死」と認識。相談・支援の充実により自殺を防ぐ体制を構築するよう提言している。

 白書に盛り込んだ警察庁の統計では、月別で自殺者が最も多かったのは5月の2542人。3月の2486人、1月の2453人と続き、最も少なかったのは12月の2001人だった。

 近年の月別自殺者数の最多は21年、22年、24年が3月、23年が5月で、いずれも年度が切り替わる時期に集中。25年の自殺者は2万7283人で、4年連続で減少。15年ぶりに3万人を切った24年と比べ、さらに575人減った。

 菅義偉官房長官は3日の会見で「景気が回復基調にあり政府の自殺対策の効果が表れてきた」と指摘。一方、若者の自殺率が諸外国と比べ高水準で推移している点には「原因を精査し、対策を講じたい」とした。

「若年世代の死因、自殺が1位は日本のみ…G7中」(読売新聞)
 → http://www.yomiuri.co.jp/national/20140603-OYT1T50086.html




我が聖典安吾に曰く、

 死ぬ、とか、自殺、とか、くだらぬことだ。負けたから、死ぬのである。勝てば、死にはせぬ。死の勝利、そんなバカな論理を信じるのは、オタスケじいさんの虫きりを信じるよりも阿呆らしい。
 人間は生きることが、全部である。死ねば、なくなる。名声だの、芸術は長し、バカバカしい。私は、ユーレイはキライだよ。死んでも、生きてるなんて、そんなユーレイはキライだよ。
 生きることだけが、大事である、ということ。たったこれだけのことが、わかっていない。本当は、分るとか、分らんという問題じゃない。生きるか、死ぬか、二つしか、ありやせぬ。おまけに、死ぬ方は、たゞなくなるだけで、何もないだけのことじゃないか。生きてみせ、やりぬいてみせ、戦いぬいてみなければならぬ。いつでも、死ねる。そんな、つまらんことをやるな。いつでも出来ることなんか、やるもんじゃないよ。
 死ぬ時は、たゞ無に帰するのみであるという、このツツマシイ人間のまことの義務に忠実でなければならぬ。私は、これを、人間の義務とみるのである。生きているだけが、人間で、あとは、たゞ白骨、否、無である。そして、ただ、生きることのみを知ることによって、正義、真実が、生れる。生と死を論ずる宗教だの哲学などに、正義も、真理もありはせぬ。あれは、オモチャだ。
 然し、生きていると、疲れるね。かく言う私も、時に、無に帰そうと思う時が、あるですよ。戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。そして、戦うよ。決して、負けぬ。負けぬとは、戦う、ということです。それ以外に、勝負など、ありやせぬ。戦っていれば、負けないのです。決して、勝てないのです。人間は、決して、勝ちません。たゞ、負けないのだ。
 勝とうなんて、思っちゃ、いけない。勝てる筈が、ないじゃないか。誰に、何者に、勝つつもりなんだ。

人間は生きることが、全部である。

── 坂口安吾『不良少年とキリスト』