“神の論理”
──数学は神の教え(神の論理)である。──
なんて言えば、仰天することであろう。
だが、“歴史の神秘”を見抜けば理解できるに違いない。
数学が成長して諸科学の根本になれたのは、ギリシャ形式論理学と結合したからである。
が、形式論理学の堅苦しさは、人を後(しり)込みさせた。人の後込みを押し切ったのが、イスラエルの神であった。
イスラエルの神は、唯一絶対の人格神である。この神にとって、いちばん大切なことは、神が存在することを人に知らせることである。神の存在問題がギリシャ数学が解決できなかった解法の存在問題へと収束していくことによって、数学の論理は成立した。
── 小室直樹(『数学嫌いな人のための数学─数学原論』)
理系だったにも関わらず、数学が苦手。(もっとも、数学に限らず学校の勉強は、物理も英語も国語も歴史もみんな苦手でしたが.....。)
と、いふ訳で、先日購入した ジェフリー S.ローゼンタール著『運は数学にまかせなさい─確率・統計に学ぶ処世術』の頁をめくる。
ことランダム性に関するかぎり、私たちには逃げ場が無ないのが現実だ。人生のあまりに多くの局面が、なかなか思いどおりにはならない出来事に支配されており、私たちは不確実性からは逃げようがない。そこで、残された選択肢は二つ。不確実性に翻弄されるか、ランダム性を理解するかのどちらかだ。もし後者を選べば、私たちはより良い選択をし、不確実性を自分のために利用できるようになるだろう。
不確実性と確率を理解すると問題の解決にどう役立つか。
- 外国旅行の計画を立てているとき、目的地ではテロが発生しているという報道があったので迷っている。それでもいくべきか?
確率の基本がわかっていれば、旅行中にテロに遭う確率を推測し、わざわざ計画を変更するほどその確率が高いかどうかを決められる。
- インターネットで安全に金銭取引するために秘密の暗号が必要になった。
ただ暗号を作るだけでは、どこかの悪者があなたの心理を見抜き、暗号を推定して、秘密情報を作れるかもしれない。けれど暗号を作るときにランダム性を利用すれば、どんなにずる賢い悪者を敵に回しても、まず間違いなく安全を確保できるだろう。現代のコンピュータは、こうした目的のためにランダム性をたえず活用している。
- 才気煥発な相手と知恵比べする羽目になったけれど、裏をかかれたくなはない。
ランダム性を使えば、「ナッシュ均衡」を生み出す戦略を立てられる。すると相手は当て推量するしか手がなくなる。
- 犯罪率が手をつけられないほど高くなってきており、犯罪撲滅にもっと予算が必要だと、地元の警察本部長や政治家が口をそろえて訴える。
「線形回帰分析」を使えば、犯罪率がほうんとうに増加しているかどうかを自分の目で確かめられる。
- 職場の会計部にいるかわいい女の子をデートに誘いたいけれど、断られるのではないか、ひょっとしたら苦情さえ言われるのではないか気に病んでいる。
「効果関数」理論を使えば、彼女に対する自分の恋心と恐怖心を数量化し、得られた値に基づいて彼女に電話すべきか決められる。
- 最新の医療研究で効果が認められた薬を服用するよう医師に言われた。
研究のバイアスと「P値(有意確率)」を検討すれば、医師の言うとおりにすべきかどうかがわかる。
- 仕事のライバルに、おまえがビジネスで成功するわけがない、雷に打たれる可能性のほうがよほど高いだろうと小馬鹿にされた。
統計を少し調べれば、ほんとうに雷に打たれて死亡する確率がわかり、ライバルの発言もジョークとして聞き流せる。
- スパム(迷惑メール)があまりに多いのにうんざりし、なんとかブロックする方法はないかと思う。
確率論を使えば、必要なメールとスパムをコンピュータに選別させることができる。これで山のようなスパムを受信ボックスから削除する面倒から解放される。
- ある日、髪をグリーンに染めた人を三人も見かけた。これは新しいファッション・トレンドか?
ランダムな出来事は、「ポアソン・クランピング」のためにかたまって起きる傾向がある。一見すると驚くべき巡りあわせや傾向も、多くはたんなる確率の問題にすぎず、特別な意味も因果関係もない。
- 友人からいわゆる「モンティ・ホール」問題を突きつけられた。三つあるドアのうち、どれか一つのうしろに自動車がある。三番めのドアの向こうになにもないことがわかっていたら、どのドアの向こうに自動車がある可能性が高いか?
「条件付き確率論」ですべての確率を計算すれば、正しい選択ができる。
- 素晴らしい曲が書けた。でも、誰かほかの人がそっくり同じ曲をすでに書いているのではないかと心配になった。
確率論に目を向ければ、独立性について考えるうえで役に立つ視点が得られ、あなたの書いた曲が正真正銘の新作であることが事実上保証される。
- 科学者やエンジニアは、橋の建設や医療研究、核反応炉の設計などに必要とされる複雑な数値計算をどうやってするのだろう?
「モンテカルロ・サンプリング法」では、高速コンピュータでランダム性を使ってそうした数値を弾き出す。
確率論によって、運任せのゲームに勝つ戦略が浮かび上がってくる。だから、確率論を利用すると、長期的に見れば勝率が上がる。
運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 ((ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ))
- 作者: ジェフリー S.ローゼンタール,中村義作,柴田裕之
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/07/10
- メディア: 文庫
- 購入: 16人 クリック: 59回
- この商品を含むブログ (21件) を見る
学ぶのに遅すぎることはないのである。
『2012年05月15日(Tue) 「学ぶのに遅すぎることはない」』 http://d.hatena.ne.jp/nakamoto_h/20120515
ちょっと数学を勉強しよう。
数学は近代経済学を学び、資本主義社会を生き抜くために、ますます必要な学問なのです。
数学!と聞いただけで、“どうも苦手”と腰の引けた人も数学の論理、数学のおもしろさに是非馴染んで欲しいと思います。
数学は“神の論理”なのです。
── 小室直樹(『数学嫌いな人のための数学─数学原論』)
- 作者: 小室直樹
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/10
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 36回
- この商品を含むブログ (43件) を見る