歴史とは、、、
歴史とはなんでしょう、と聞かれるとき、
「それは、大きな世界です。かつて存在した何億という人生がそこにつめこまれている世界なのです。」
と答えることにしている。
私には、幸い、この世にたくさんのすばらしい友人がいる。
歴史の中にもいる。そこには、この世では求めがたいほどにすばらしい人たちがいて、私の日常を、はげましたり、なぐさめたりしてくれているのである。
今日は菜の花忌。
平成8年(1996年)2月12日、司馬遼太郎 没。
『司馬遼太郎記念館』 http://www.shibazaidan.or.jp/
『「明治」という国家』だったか、司馬さんが歴史を語るとき、「私たちはこういう体験をしました」、「こんな体験もしました」と、まるで自身の歴史かのように、心を込めて語ります。
誇るべき歴史も、恥ずべき歴史も、すべて自身の体験のように語る司馬さんには、日本の歴史、日本という国に対する大きな愛情を感じます。
昨日の福田恆存氏が語るように、「日本人が日本を愛するのは、日本が他国より秀れてをり正しい道を歩んで来たからではない。それは日本の歴史やその民族性が日本人にとつて宿命だからである。」
司馬さんにとっても、もちろん我々自身にとっても、我々の歴史は愛すべき宿命である。
ニーチェのいうところの運命愛である。
司馬遼太郎は、けっして読者を萎縮させない。逆に、やさしく励まして、元気づける。面白く、興じて、談笑をさそう。陽気で、活発な、心おどりを生む。人の世の、むつかしさ、を描きながら、意気を消失させないのである。ハッパをかける、のではなく、慰撫して、医(いや)す、のである。いや、単に、医す、と言ったのでは当をえない。心の病気にならぬよう、あらかじめの治療をほどこすのである。すなわち、精神の衛生学、である。病に至らぬための、日常不断の手当である。まだ一般的ではないが、未病(みびょう)、という言葉がある。病に至らぬための工夫と手当を指す。病におちいってからでは遅い。医学の極意は未病であろう。司馬遼太郎の述作は、精神の未病学、とも言えようか。司馬遼太郎の作品を読みうること、それは、現代人のおおいなる幸福である、と私は信じる。
── 谷沢永一 (『司馬遼太郎の贈りもの』)
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