『No Excuses』
「両手両足のないカイル・メイナードさんがキリマンジャロの登頂に成功! 前人未到の挑戦に込められた思い」(ロケットニュース24)
→ http://rocketnews24.com/2012/02/26/185340/
アフリカ大陸最高峰として有名なキリマンジャロ。山頂の標高は5895メートル。これまで何千人もの人が山頂に到達してきたが、先月キリマンジャロの山頂に到達したある男性はこれまでの登山者と異なっていた。その人物はアメリカ人のカイル・メイナードさん(25歳)。先天性四肢切断という障害があり、生まれつき両肘、両膝より先の手足がない。そんな彼がキリマンジャロに登頂したのだ。両手両足の無い人がキリマンジャロの登頂に成功したのは初めてのこと。
メイナードさんは今回のキリマンジャロ登頂に限らず、これまで様々な挑戦をして、周囲を驚かせてきた。レスリング選手として活躍したことがあり、総合格闘技のトレーニングを積んできた。人気ファッションブランド、アバクロンビー&フィッチのモデルを務めたこともある。自身の体験と哲学を綴った本『No Excuses(言い訳しない)』はアメリカでベストセラーになった。
・きっかけは退役軍人との出会いだった
「障害があっても、何事も可能なんだ」ということを自ら周囲に示し続け、多くの人に勇気を与えてきたメイナードさんだが、今回のキリマンジャロ登頂は単なる記録づくり・功績づくりが目的ではなかった。この挑戦の始まりは、ある出会いがきっかけだった。メイナードさんが多忙な生活の中で落ち込んでいた時、空港で2人の男性に出会った。彼らは身体に怪我を負っていた。イラク戦争で怪我を負い、1年間の厳しいリハビリを受ける必要があるという。彼らは絶望の中で自殺さえも考えたことがあるというが、テレビでメイナードさんの特集を見て、人生を立て直すことを心に決めたのだという。
メイナードさんはその話を聞いて、退役軍人の現状をリサーチした。すると、なんと年間6570名、一日にすると18名の退役軍人が自殺をしていることが分かった。「彼らの中の数人だけでも支援をして、人生に目標を持つことを示せれば、自殺という道を選ばなくてすむと考えた」
・どうやって登るのか? かつてない挑戦に試行錯誤
こうして生まれたのが、キリマンジャロを登頂する「ミッション・キリマンジャロ」だった。それは、それまで数々の前人未到の挑戦を成し遂げてきたメイナードさんにとっても、非常に大きなチャレンジだった。総合格闘技のトレーニングをしてきた彼にとって、手足を使ってすばやく動きまわることは難しくないが、硬い溶岩と氷の上を歩くとなると、話は別だ。手足をサポートする物が必要になった。
タオルに鍋つかみ、オーブン用の手袋など、様々なものを手足の先に当てて試してみるが、どれもうまくいかない。模索していたところ、ある企業が力を貸してくれた。義肢と矯正器具の専門家が知恵を出し合って、最終的に炭素繊維のタイヤを特別にカスタマイズし、氷壁用の爪を付けたものを作ってくれたのだ。開発にかかった経費も企業が負担すると申し出てくれた。
・出発、そして過酷な登山
こうした周囲の支援を受けながら準備を進め、「ミッション・キリマンジャロ」の9名のグループは1月初旬にアメリカを発った。戦争で身体に怪我や障害を負った陸軍軍曹や海兵隊士官も参加していた。キリマンジャロはアフリカ大陸では最高峰、独立峰としては世界で最も高い。歩きながら舞う埃で長身の男性さえもむせることがある中、地上60センチの高さを這って登ることがどれだけ大変なことか、想像を絶する。ミッションを成し遂げるには、一日に900メートルを登る必要がある。毎朝3時に出発し、午後の4時まで歩き続けた。
・仲間の思いを胸に登頂
毎日グループメンバーの一人はあるネックレスを下げていた。ネックレスにはコリー・ジョンソンさんの遺灰を入れた小さな袋が付いていた。ジョンソンさんは2010年に陸軍に入隊。アフガニスタンの子ども達にあげるためのキャンディーをポケットにつめておくような優しい人柄だった。しかし、彼は現地の暴徒による攻撃を受けて、昨年5月に亡くなったのだ。28歳だった。彼の母親の話によると、生前ジョンソンさんはキリマンジャロに一度は行ってみたいと話していたそうだ。
最終日は午前4時に出発。メイナードさんはそのネックレスをジャケットに入れて登った。より力が湧いてきたという。そして、7時15分に山頂に達した。太陽が昇り、下には広大な大地が広がっていた。感動に包まれる中、ジョンソンさんの遺灰が天国に向かってまかれた。
メイナードさんは今回の挑戦を通じて、「何事も可能である」というメッセージが、1人でも多くの退役軍人、そして世界中の人々に届き、自ら命を絶つ人が少なくなることを心から望んでいる。
No Excuses: The True Story of a Congenital Amputee Who Became a Champion in Wrestling And in Life
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「高く登ろうと思うなら、自分の脚を使うことだ。高いことろへは、他人によって運ばれてはならない。人の背中や頭に乗ってはならない。」