タルホ
「ある夜倉庫のかげで聞いた話」
「お月様が出ているね」
「あいつはブリキ製です」
「なに ブリキ製だって?」
「ええどうせ旦那 ニッケルメッキですよ」 (自分が聞いたのはこれだけ)
ではグッドナイト! お寝みなさい 今晩のあなたの夢はきっといつもと違うでしょう
昭和52年(1977)10月25日 稲垣足穂 没
『一千一秒物語』(松岡正剛の千夜千冊) http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0879.html
- 作者: 稲垣足穂
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/12
- メディア: 文庫
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私は、私を動かしているものを信じている。けれども、我をして世に勝たしめ給えなど云って、そのものに祈願している訳ではない。何故なら、私が若(もし)そんなお祈りをやったら、同様な事を願っている人が彼方にも此方にもある筈だから、修羅道の火焰は此所に拍車を加えて燃え上がり、何時果つべしとも知れぬ仕末が、更に先方へ延長される様な気がするからだ。これはどう考えても、理性を有(も)った者のやる事ではない。そんなら何事を念じたらよかろうか。それは私には判らない。観音様にでも尋ねる他あるまい。然し、恐らく観音様は、モナリザみたいな笑いを浮かべる丈(だけ)で答えては呉(く)れまい。
── 稲垣足穂(『意思と世界』星の都)