疑似科学と懐疑精神
「疑似科学やオカルト… なぜ、だまされるのか?」(産經新聞)
→ http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/081121/sty0811210813001-n1.htm
霊視や前世占い、占星術といった「スピリチュアル(精神的な、霊的な)世界」がブームだ。それらを扱うテレビ番組は軒並み高視聴率を獲得し、ベストセラーになる出版物も多い。だが、中には疑似科学やオカルト現象を妄信し、だまされて被害にあう人もいる。科学の視点で批判してきた立命館大学国際平和ミュージアム名誉館長の安斎育郎さんは「『思い込み』と『欲得ずく』が錯誤への落とし穴」と注意を呼びかける。(伐栗恵子)
■「欲得ずく」「思い込み」が落とし穴
今月中旬に大阪市内で行われた関西消費者協会の講演会。安斎さんは趣味の手品を生かしながら、超能力やオカルト現象のトリックを暴いていく。
例えば、スプーン曲げ。丈夫な金属のスプーンを指で軽くさすっているうちに、ぐにゃりと曲がり、客席からは驚きの声が上がる。だが、これは支点、力点、作用点をうまく利用しただけ。要領さえつかめば簡単に曲がるという。
「目の前で自分の理解を超えたことが起こったとき、超能力と思わずに、なぜ、こんなことが起きるのか、と考えてほしい」と安斎さん。「人間は、だまされやすい」ということを肝に銘じるのが大切であって、一番危ないのは「私だけは、だまされない」という「思い込み」と指摘する。
「あの人の言うことだから、本当だろう」という主体性の放棄も、自らの心をだます行為だ。「自分の目でしっかり確かめ、自分の頭で判断する習慣を」と呼びかける。
不幸に陥ると、その原因を霊に求める人がいる。問題の根本的な解決にはならなくても、「悪霊(あくりょう)のたたり」などのせいにした方が心の平安を得られやすいからだ、と安斎さん。「霊は、人の不幸の消しゴム係」と絶妙の表現をする。
もし霊が目に見えるのならば、霊そのものが光を発しているか反射しているはず。「たたる」には記憶や認識といった高度な仕組みを持った有機体でなければならない。霊を信じるかどうかは個人の自由だが、「科学的な意味では存在し得ない」と断言する。
科学技術が進歩したこの時代に、人はなぜ、「スピリチュアル」にはまるのか。安斎さんは、それこそ、「なぜ」と問う力が弱まっているからだと嘆く。
例えば、携帯電話やDVDの仕組みは、説明されても理解するのが難しい。科学が進歩したがゆえに、人は自分の理解の範疇(はんちゅう)を超えたものをそのまま受け入れてしまいがちで、それが超能力などを簡単に信じる傾向となって表れていると説明する。
「ささいなことでも、『なぜ』と意識的に問い直してほしい。その背景には必ず理由があるのだから」
さらに、“インチキ”を見破るには、「そんなことができるのなら、どうしてこうしないのか」と考えてみることが大切だと言う。
スプーン曲げができるのならば、どうして金属加工技術として役立てないのか。そんな能力をもった人を生産ラインにずらりと並べれば、次々と金属加工が施され、たちまち製品が出来上がる。簡単に大もうけができる話なら、その勧誘員自体が大金を手にしているはずであり、そもそもそんなおいしい話を他人に教えるのか。「3週間で英語がペラペラになる教材」といった宣伝文句が本当なら、なぜ、その販売員はペラペラではないのか…。そう考える心のゆとりが必要だ。
楽して得を取りたいという「欲得」と「思い込み」、それに「非合理的思考」が結合するとき、人はとめどもなく危うい「だまし」の深みにはまっていく、と安斎さんは警告する。
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信じやすい人というのは、奇妙なことがらを信じることに無上の喜びを見出すものだ。しかも、奇妙であればあるほど受け入れやすいときている。ところがそういう人は、平明でいかにもありそうなことがらは重んじようとしない。というのもそんなものは誰でも信じることが出来るからだ。
―― サミュエル・バトラー『人さまざま』
“科学の良心”カール・セーガン博士は、こういった疑似科学やオカルト、いわゆる“トンデモ”に引っかからない、懐疑的思考をするための“道具”として下記のような例を挙げている。
『カール・セーガン 科学と悪霊を語る』より抜粋。
- 『裏付けを取れ』:「事実」が出されたら、独立な裏付けを出来るだけたくさん取るようにしよう。
- 『議論のまな板に載せろ』: 証拠が出されたら、様々な観点を持つ人たちに、しっかりした根拠のある議論をしてもらおう。
- 『権威主義に陥るな』: 権威の言うことだからといって当てにしないこと。権威はこれまでも間違いを犯してきたし、今後も犯すかも知れない。こう言えばわかりやすいだろう。「科学に権威はいない。せいぜい専門家がいるだけだ。」
- 『仮説は複数立てろ』: 仮説は一つだけでなく、いくつも立ててみること。まだ説明のつかないことがあるなら、片っ端から反証していく方法を考えよう。このダーウィン主義的な選択をくぐり抜けた仮説は、単なる思いつきの仮説に比べて、正しい答えを与えてくれる見込みがずっと高いはずだ。
- 『身びいきをするな』: 自分の出した仮説だからといって、あまり執着しないこと。仮説を出すことは、知識を手に入れるための一里塚にすぎない。なぜそのアイディアが好きなのかを自問してみよう。そして、ほかのアイディアと公平に比較しよう。そのアイディアを捨てるべき理由が無いか探してみよう。あなたがそれをやらなければ、他の人がやるだろう。
- 『定量化しろ』: 尺度があって数値を出すことが出来れば、いくつもの仮説の中から一つを選び出すことが出来る。あいまいで定性的なものには、色々な説明が付けられる。もちろん、定性的な問題の中にも深めるべき真実はあるだろうが、真実を「つかむ」方がやりがいがある。
- 『弱点を叩き出せ』: 論証が鎖のように繋がっていたら、鎖の輪の一つ一つがきちんと機能しているかどうかをチェックすること。「ほとんど」ではなく、前提も含めて「すべて」の輪がきちんと機能していなければならない。
- 『オッカムのかみそり』: これは使い手のある直感法則で、こう教えてくれている。「データを同じくらい上手く説明する仮説が二つあるなら、より単純な方の仮説を選べ」。
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