NAKAMOTO PERSONAL

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「朝日記事の信頼度が最も低い理由」

「朝日記事の信頼度が最も低い理由」(livedoor ニュース)
 → http://news.livedoor.com/article/detail/3729531/

【PJ 2008年07月15日】− 警察庁は10日、08上半期に認知した刑法犯件数が前年同期比5.0%減の87万9208件で、6年連続で減少したと発表しました。凶悪犯は4200件で8.8%の減少。一方、殺人(未遂も含む)は10.8増の649件で昨年までの4年連続の減少から増加、というのが主な内容です。


 以下はこの発表を伝える主要メディア電子版の記事の見出しです。

アサヒコム   殺人事件、上半期649件 前年比1割増
MSN-産経    上半期の刑法犯6年連続減少 振り込め詐欺は蔓延
日本経済新聞   刑法犯、6年連続の減少 警察庁まとめ、1―6月
47NEWS      刑法犯が6年連続減少 08年前半、警察庁まとめ
TBS News    刑事犯6年連続減、振り込め詐欺増加
福島放送     上半期の刑法犯、6年連続で減少
時事通信     上半期の刑法犯、6年連続減=窃盗は20年間で最少−通り魔は5件…
毎日新聞    刑法犯:6年連続で減少、殺人は10%増 上半期・警察庁
FNN       2008年上半期の刑法犯、およそ88万件 6年連続減少も殺人・詐欺は増加

 上記のうち殺人事件の増加だけを見出しにしているのは朝日だけです。他社はすべて刑法犯の減少を主にしています。毎日とFNNは殺人の増加を載せてますが、重点は刑法犯の減少にあります。やはり朝日だけが「特別」という印象がぬぐえません。これは単なる偶然ではなく、朝日の特異な体質を反映したものと理解してよいと思います。


 見出しには新聞社が強調したいこと、つまり新聞社の意向が反映されます。刑法犯の減少よりも殺人の増加という事実を伝えたかったと解釈できます。見出しから意味をくみ取ろうとする人は、社会の治安が悪くなったと理解する恐れが多分にありますから、それをも狙ったものと考えられます。

 朝日は記事の初めにも殺人事件の増加を説明し、「凶悪事件の頻発で、治安の回復を実感できない状況が浮き彫りとなった」と、不安を「誘導」しています。刑法犯減少は印象に残らないよう「親切な配慮」がなされています。なんとしても、犯罪が減って良かったとは思わせたくないようです。他のメディアを読んだ人に比べ、治安に関して逆の認識を持つ可能性があります。

 もうひとつの問題はこの数値の扱いです。刑法犯減少率は5.0%で殺人増加率は10.8%ですが、双方の率の信頼度には差があります。刑法犯の5.0%減の元になった数値は92万5239(件)であり、殺人増加の10.8%の元になった数値は586(件)です。元の数の大きさに大きな違いがあります。

 元の数が小さいほど増少率の信頼度が小さくなります。例えば前年の件数が10件で、今年12件に増えた場合は20%の増加ですが、この20%は増加傾向を表すものとしてはあまり意味がありません。偶然の要素に左右されるからです。それに対して刑法犯のように元の数が数十万の場合は高い信頼度があります。

 朝日が殺人10%増とするのは、傾向を表すデータの内のわざわざ信頼の低い方を強調しているわけで、数値の理解力を疑うに十分です。正確に伝えるというメディアに要求される基本要件が欠如していると考えざるを得ません。

 このような見出しをつけた理由は、社会不安を煽(あお)るセンセーショナルな記事を優先する体質と、学力の低さに求められます。もし学力が高く「増加率」の意味を知りながらあえて報道したのなら、一層誠実度が疑われまます。それとも社会不安を煽る目的が他にもあるのでしょうか。いずれにしても、不安を煽るという揺るぎない「熱意」は感動的です。

 調査によって朝日の読者信頼度が低下しているという事実(詳細)が明白になりましたが、この記事を見ると納得がいきます。

 60代や70代以上の層では朝日の信頼度が残っているものの、若い層の信頼を失いつつあります。とは言うものの依然として大きな影響力を持っています。センセーショナリズムに強く傾斜した報道、低い見識によって選択・歪曲(わいきょく)されたは報道は社会に誤った認識を広め(参考 メディアが作るイメージと現実のかい離)、有害であります。

 新聞はあくまで事実の報道という形で、国民を一定の方向に追いやることができますが、さらにその限度を超えて、最初から「世論はこうだ、こうだ」と国民の頭上におっかぶせていくとなると問題です。ことに一般の国民は難解拙劣な政治記事を読まずに、見出しや煽情的な社会面を読みがちですから、そういう工作は易々たるものです。もちろん、国民の大部分は動かされはしませんでした。

―― 福田恆存『輿論を強ひる新聞』