「甘ったれるな」
「【産経抄】6月17日」より
→ http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080617/trd0806170327001-n1.htm
瀬戸内寂聴さんが、尊敬する先輩作家の宇野千代に、かかわりのあった男性について尋ねたことがある。名前を挙げると間髪を入れず、「寝た」あるいは「寝ない」の答えが返ってきた(『奇縁まんだら』日本経済新聞)。
▼「寝た」の方がずっと多かったが、梶井基次郎については、「寝ない!」だった。宇野が夫の尾崎士郎と別れたのは、梶井との噂(うわさ)が広がったからだ。それなのにどうしてと聞くと、「あたし面喰(めんく)いなの」の一言で片づけたという。
▼東京・秋葉原の無差別殺傷事件について、山口二郎北海道大学教授が東京新聞のコラムに書いている。「生きる希望をまったく持てないような社会をつくりだした側が、真剣に反省することから事件の解明は始まるべきである」と。確かに加藤智大容疑者(25)は、職場に対する不満を語っていた。
▼ただ、携帯サイトの掲示板にはこんな言葉を書き込んでいる。「顔だよ顔 全(すべ)て顔 とにかく顔 顔、顔、顔、顔、顔」「彼女さえいればこんなに惨めに生きなくていいのに」。彼女ができない孤立感を、社会のせいにされてはたまらない。
▼肺結核のために31歳の若さで世を去った梶井の肖像写真を見ると、宇野のいうことも、なるほどと思う。梶井が一時自堕落な生活を送った背景には、容貌(ようぼう)に対するコンプレックスもあったかもしれない。ただ、それを社会に直接ぶつける代わりに小説に昇華させた。爆弾に見立てたレモンを丸善に置いて立ち去る『檸檬(れもん)』をはじめ、奇跡のような名作を残した。
▼金がない、勉強ができない、異性にモテない。昔から青春時代につきものの悩みを、乗り越えてこその人生である。やはり加藤容疑者には、「甘ったれるな」と一喝(いっかつ)するしかない。
会社が悪い、親が悪い、社会が悪い。
モテないだの、バカにされただの、いじめられただの。
アシュリーを見よ。
「初めてあった人にはこう説明するの。」
「私はプロジェリア。」
「病気の一つで、人にはうつらなくて、生まれつきの病気。」
「髪の毛は抜けてしまった。」
「でも、頭に浮き出た血管をからかう人には、こう言うわ。」
「『あなたの頭にも、同じ血管があるのよ』ってね。」
「もし生まれ変わるとしたら?」との問いに、
"I probably say, me again." 「きっと、もう一度、自分を選ぶ。」
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『プロジェリア症候群 - Wikipedia』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AE%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
アシュリーはニーチェである。
人間における偉大さを言い表す私の定式は運命愛である。すなわち、人が何事をも別様に持とうと欲しないこと、前方においても背後においても、あらゆる永遠にわたって欲しないことである。必然的なことを単に耐え忍ぶではなく、まして、隠すのではなく─ いっさいのイデアリスムスは必然的なものの前では虚偽である ─、それを愛することである。
― フリードリヒ・ニーチェ(『この人を見よ』)
・いったい君に泣き言を言わせた第一の原因は何だったのか? 誰ひとり君に十分に媚びてくれなかったということだ。そのために君はこうした汚物の中に座り、大げさに泣き立てる理由ができたという訳だ。多くの復習をとげる理由を手に入れたという訳だ!
・ぼくの最大の危険は常に人をいたわること。そして同情することにあった。しかもあらゆる人間は、いたわられ、同情されたがっている。
・残酷なのだろうか? 「倒れる者を、さらに突け!」と言うこのぼくは。現代の者はことごとく倒れる。だがそれを支えようとするだろう! しかし、ぼくはさらにそれを突いてやるのだ!