NAKAMOTO PERSONAL

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない? そんなら、君と話をしない。

一日一言「急がずおこたらず」

三月二十二日 急がずおこたらず


 西暦一八三二年の今日は、ドイツの文豪ゲーテが世を去った日である。あらゆる面で才能が卓越した彼は、「急ぐなかれ、おこたるなかれ」の主義を守って業績を残した。凡人はしなければならないことや、してきたことを思うと、気だけあせって何から手をつけようかと迷うばかりで、その挙句は、何もしないで一生を終わることになる。一生の仕事は、その日その日のことを完成させるほかはない。


   怠らず行かば千里の外も見ん
       牛の歩のよしおそくとも

── 新渡戸稲造一日一言

アンゴ先生にも曰く、

 他人が正しくないと云って憤るよりも、自分一人だけが先づ真理を行ふことの満足のうちに生存の意義を見出すべきではないですか。郵便配達夫は先づその職域に於て最善の責務を果すことです。それもできずに、道義退廃だの政治の改革だのと騒いでも駄目です。私は結社や徒党はきらひで、さういふものゝ中でしか自分を感じ得ぬ人々は特にきらひなのです。

── 坂口安吾『青年に愬ふ―大人はずるい―』

「緑の香り」の正体

「河川敷には寝転がらないほうがいいかも? 「芝生の香り」の正体」(logmi)
 → http://logmi.jp/194704

「芝生の香り」の正体

芝生を刈った後に香る、草の香りがありますね? 新鮮で、暖かい春の季節がやってきたと思うのではないでしょうか。

しかし、芝は通常いつもそのような香りを放っているわけではありません。では芝を刈った時に一体何が起きるのでしょうか?
芝やその他の草は、自分の葉が傷つけられると身を守るために化学物質を放出します。それらの化学物質は「GLVs」と呼ばれる「緑の香り」です。それは空気中に蒸発し、独特の香りを放ちます。その香りは草にとっての敵である、草を蝕む虫の天敵を呼びます。
葉の多い植物が傷を負うと、それは自分の身を守るために大量の化学物質を作り出します。それらの化学物質のうちのいくつかは植物の中にある分子に信号を送ります。例えばジャスモン酸やサリチル酸は植物が美味しくなくなるようにしたり、菌やバクテリアの感染から身を守るために化合物を合成したりするのを助けます。トラウマチン酸などの他の信号を送る分子はその植物に、傷を閉じるための細胞をもっと作るようにという信号を発信します。
しかし「緑の香り」はそれとは少し異なります。それらは揮発性の有機化合物です。つまり、それらは容易にガスとなり空気中に放出されます。助けを求める声をあげる役目をするというわけです。芝刈り機が出回る前、植物の葉が傷つく理由は、毛虫に葉を食べられるというくらいしかありませんでした。

傷ついた植物は多量の「緑の香り」を放出します。それにはアルデヒド、アルコール、エステルなどの化学物質が含まれます。それらの中のいくつかが、新鮮な草の匂いの原因です。しかしさらに植物にとって重要なこととして、これらの化学物質は寄生スズメバチなどといった他の昆虫を食べる虫に対するディナーの知らせとなるのです。寄生スズメバチは毛虫に卵を産み付け、結果的に殺します。

植物にとってこの化学物質の匂いがどれほど大事なのかを知るために、テキサスA&M大学の研究者たちは突然変異により「緑の香り」を生み出せなくなったとうもろこしを研究しました。とうもろこしは植物学上イネ科です。
時の経過とともにこの突然変異のとうもろこしは「緑の香り」を生み出すことのできる方と比べて、研究所内と野外の両方で、虫に食われるダメージが大きくなりました。捕食性の昆虫は化学物質の信号無くしては、それほど頻繁に彼らの餌食となるはずの草食性昆虫を食べに現れることはなかったのです。
ですから次回、新鮮な芝の匂いを嗅いだ時、昆虫がそれにより益を得ているということを忘れないでください。

熊楠

「森の中の博物館をイメージ 南方熊楠記念館の新館、3月19日にオープン」(産経新聞
 → http://www.sankei.com/west/news/170111/wst1701110044-n1.html

 平成27年秋から新館建設工事のため休館している和歌山県白浜町の番所山にある公益財団法人「南方熊楠記念館」(谷脇幹雄館長)は、併せて実施している本館の耐震補強工事も進み、3月19日に新館と本館を同時開館することを決めた。

 南方熊楠記念館は、鉄筋コンクリート造り2階建ての本館が昭和40年の建設で老朽化し、延べ床面積も512平方メートルと手狭なことから西隣に新館(鉄筋コンクリート2階建て、555平方メートル)を建設。すでに外装工事は終わっている。

 全館バリアフリー化し、常設展示場となる2階と屋上部分は通路を設けて本館と接続。屋上は広い展望台となっており、温泉街や田辺湾などがパノラマ状に見渡せる。本館は特別展やセミナーなどの会場として使用する。

 記念館全体がうっそうとした木々に囲まれており、ガラスの面積を広くとった新館について、谷脇館長は「森の中の博物館というイメージにした。熊楠生誕150年の今年に新館が完成することは意義深い」と話した。

 工事費は新館が約4億円、本館耐震補強工事費が約5千万円。広く募っていた寄付金は約3100万円集まったという。入館料は大人500円、小中学生300円の予定。問い合わせは同館((電)0739・42・2872)。

「熊楠記念館 3月19日新館オープン」(ニュース和歌山
 → http://www.nwn.jp/news/17031806_kuma/


南方熊楠記念館 – Minakata Kumagusu Museum』 http://www.minakatakumagusu-kinenkan.jp
南方熊楠 - Wikipedia』 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E6%96%B9%E7%86%8A%E6%A5%A0

森のバロック (講談社学術文庫)

森のバロック (講談社学術文庫)

南方熊楠の森

南方熊楠の森

南方熊楠英文論考「ネイチャー」誌篇

南方熊楠英文論考「ネイチャー」誌篇

『歴史の大局を見渡す』

ピュリツァー賞歴史家が50年前に発していた現代への警告」(ニューズウィーク日本版)
 → http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/50-14.php

<「文明が複雑になるにつれ不平等は深刻化する」「自由と平等は永遠の敵同士」......40年かけて歴史書を著したウィル・デュラントのエッセイ集『歴史の大局を見渡す』の洞察>


40年という歳月をかけて11巻に及ぶ歴史書を著した人物がいた。歴史家、哲学者、著述家のウィル・デュラントである。

デュラントは1885年にアメリカ、マサチューセッツ州で、カトリック教徒の家に生まれた。イエズス会の大学に進学し、本人も周囲も聖職者になるものと思っていたが、ダーウィンやスペンサーの書と出会い、信仰が揺らぐ。神学校に入っても信仰心をとり戻すことはできず、かわりに見つけたのがスピノザの『エチカ』だった。スピノザは彼に大きな影響を与えた。

1911年にデュラントは神学校を去ってニューヨークに移り、モダン・スクールの教師になった。モダン・スクールは労働者階級のための先進的な学校だった。彼はそこで生徒と恋に落ち、1913年に教職を辞して結婚。生計を立てるために講師となる一方、スポンサーを得て、コロンビア大学の大学院で学んだ。

ある日、彼のプラトンについての講義を聞いた出版社の経営者から、それを本にしないかという話が持ち込まれ、哲学に関する小冊を次々と出版した。するとそれが別の出版社の目に留まり、"The Story of Philosophy"(哲学の話)という1冊の本にまとめて刊行されるやベストセラーとなった。同書は哲学を一般の人々に広めた画期的な本と評価された。

デュラントには長年温めてきた構想があった。それは、ヘンリー・バックルの文明史のような本を書くことだった。"The Story of Philosophy"の成功によって経済的自由を得た彼は、残りの人生をその執筆に捧げることにした。

そうして誕生したのが、11巻にわたる"The Story of Civilization"(文明の話)だ。第1巻が1935年、第11巻が1975年に刊行される大著となった。第7巻からは妻、アリエルが共著者として加わっている。2人はこのシリーズの第10巻"Rousseau and Revolution"(ルソーと革命)でピュリツァー賞(一般ノンフィクション部門)を受賞。1977年には大統領自由勲章を贈られた。"The Story of Civilization"でデュラントの名声は確固たるものとなった。


『文明の話』全10巻のエッセンスを13のエッセイに
第10巻の出版後、デュラント夫妻は長年の研究と思索に基づいて、13のエッセイから成る本を書いている。それが、"The Story of Civilization"10巻のエッセンスを抽出して分析した"The Lessons of History"だ。1968年のことである。今般、その訳書が『歴史の大局を見渡す──人類の遺産の創造とその記録』(筆者訳、パンローリング)として刊行された。

デュラントは生物学、政治学、宗教など、さまざまな観点から歴史を概観し、人の性質や国家の行動、将来の見通しについて述べている。例えば第3章「生物学と歴史」では、歴史の教えとして私たちが学ぶのは、生存競争や自然淘汰など、生物学の法則にほかならないと論じる。

人は生存競争にさらされている。生きていくうえで競争は避けられない。他と競う個人には所有欲や好戦性、排他性、自尊心という特性がみられるが、個人の集まりである国家は、競争を戦争という究極の形でやってのけると警告する。

人はまた、自然淘汰からも逃れることができない。健康や能力、性質など、もって生まれたものは人によって大きく異なり、生まれたときからすでに淘汰は始まっている。人は生まれながらにして自由かつ平等の権利を有するとフランス人権宣言は謳っているが、自由と平等の両方を手にするなど不可能だという。


印象的なセンテンスを対訳で読む
歴史に学ぶのはもちろん、数々の警句も本書の魅力の1つである。以下は『歴史の大局を見渡す――人類の遺産の創造とその記録』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋した。


●Society is founded not on the ideals but on the nature of man, and the constitution of man rewrites the constitutions of states.
(社会は理想ではなく人の性質を基盤に築かれる。人の性質が変わると、国の性質も変わる)

――大きくとらえると、歴史は繰り返す。それは、人間の性質の変化には長い時間を要し、人は飢えや危険のような何度も発生する状況に対してはいつも同じ反応を示すからである。しかし、新しい状況が生まれると、本能的な型にはまった反応とは異なる反応が求められる。社会は慣習と創造の相互作用によって進化していくという。


●Inequality is not only natural and inborn, it grows with the complexity of civilization.
(人は生まれながらにして不平等で、文明が複雑になるにつれ不平等は深刻化する)


●For freedom and equality are sworn and everlasting enemies, and when one prevails the other dies.
(自由と平等は深い恨みをいだく永遠の敵同士で、一方が栄えると一方が滅びる)

――人は生物学的に平等たり得ない。しかし、教育の機会均等を推進し、各人が能力を活かせるよう道を開くことは可能だという。


●Democracy is the most difficult of all forms of government, since it requires the widest spread of intelligence, and we forgot to make ourselves intelligent when we made ourselves sovereign.
(民主制は最もむずかしい政体である。民主制のもとでは、誰もが知性を身につけていることが必要になる。ところが私たちは主権を得たとき、知性のことなど考えていなかった)

――多数の人をだまして大国を支配することは可能だとデュラントは警鐘を鳴らす。耳に心地よいだけの言葉に乗らないよう、ものごとを知り、自ら考え、判断することが求められる。

◇ ◇ ◇

50年も前に書かれた本だが、今を生きる私たちにも、歴史に対する新しい視点や現代という時代を理解するヒントを与えてくれる。

歴史の大局を見渡す ──人類の遺産の創造とその記録 (フェニックスシリーズ)

歴史の大局を見渡す ──人類の遺産の創造とその記録 (フェニックスシリーズ)

  • 作者: ウィル・デュラント,アリエル・デュラント,Will Durant,Ariel Durant
  • 出版社/メーカー: パンローリング株式会社
  • 発売日: 2017/01/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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